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社説・コラム

社説 日米首脳会談 地位協定なぜ改めない

 日米首脳会談から一夜明けたきのう、肩を並べて伊勢神宮の参道を歩くオバマ米大統領と安倍晋三首相の姿が伝えられた。開幕した伊勢志摩サミットの友好ムードを演出する狙いだったのだろうが、多くの沖縄県民からすれば、少し違和感を覚えたのではないか。

 おととい夜の会談で、両者は深刻な表情を見せたばかりだ。首相は沖縄県で米軍属の男が逮捕された女性遺棄事件を巡って大統領に「断固抗議」し、実効的な再発防止策を求めた。大統領も「心からの哀悼と深い遺憾の意」を表明した。

 首脳同士の和気あいあいとした関係は悪いことではない。ただ沖縄の重大事件への対応が、もう終わったかのように映る姿勢ならいかがなものだろう。

 首脳会談を予定から1日前倒ししたのも、素早い対応をアピールしたい政権の思惑が透けて見える。サミットと広島訪問という歴史的なイベントに、沖縄の事件と切り離して臨みたかったのではないか。きょう告示の沖縄県議選、さらに参院選を意識したのかもしれない。

 問題は会談の中身である。両首脳は「日米が協力して米軍基地負担軽減に全力を尽くす」とのメッセージを打ち出したが、具体策に踏み込まなかった。

 沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事らが事件を踏まえ、強く求めた日米地位協定の改定を含む抜本的な見直しについても、首相は「目に見える改善を具体化し、結果を積み上げる」と運用の改善で対応する考えを示しただけだ。

 知事は事件後、首相と面談して「米軍基地があるがゆえに起きた事件。大統領と直接話をさせてほしい」と求めていた。なのに首相は沖縄県の要求さえ大統領に伝えなかったという。その知事が「まったく中身がない」と批判したのも当然だ。

 地位協定については、これまでも米軍人や軍属らによる犯罪や事故が起こるたび、日本の捜査や裁判権を制限する内容が問題とされてきた。今回は公務外の軍属の容疑で地位協定は障害とならなかったが、沖縄で事件が絶えない背景には地位協定の存在があるのは明らかだ。現に沖縄選出の島尻安伊子沖縄北方担当相も、抜本的な改定が必要だと明言している。

 普天間飛行場の辺野古移設問題などを巡り、沖縄の負担軽減を図ると安倍政権は繰り返してきた。この首脳会談は沖縄の切実な思いに寄り添い、地位協定見直しを提起する絶好の機会だったはずだ。米国に対して弱腰と言われても仕方なかろう。

 政府はきのう、再発防止を徹底するため、関係省庁の局長級によるチームを発足させた。街路灯や防犯カメラの増設、パトロールの強化を検討するというが、それだけで長年繰り返されてきた米軍関係者による犯罪が防げるとは思えない。

 きのう県議会が事件に抗議するとともに、在沖縄海兵隊の撤退を求めて決議した。沖縄では日を追って抗議の動きが拡大する。首相は事件の影響の深刻さを軽く見てはいないか。

 きょう首相と大統領は被爆地広島を訪れる。核兵器廃絶に向けた決意をともに示すとみられるが、同時に安全保障における日米関係の強化をアピールする狙いがあるのかもしれない。しかし、沖縄の怒りを決して置き去りにしてはならない。

(2016年5月27日朝刊掲載)

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