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「ノーモア」 決意刻む 平和公園滞在52分 折り鶴 記帳台にそっと オバマ氏広島訪問

 記帳台でオバマ氏は芳名録に筆を走らせ、書き終えると、2羽の折り鶴をそっと置いた。広島市中区の原爆資料館。大統領の「サプライズ」。「少し手伝ってもらったけど、私が作りました」。安倍晋三首相の質問にそう答えたという。オバマ氏は4羽を用意し、残りは同席した同市内の小中学生2人に手渡した。

 オバマ氏は午後5時24分に平和記念公園に到着。その足で原爆資料館に入った。被爆から10年後、白血病のため12歳で亡くなった佐々木禎子さんが病床で折った折り鶴の展示品について、岸田文雄外相から説明を聞いた。他の複数の遺品も見学。随行した広島平和文化センターの小溝泰義理事長は「それぞれの前で足を止めて説明を聞き、時に質問していた」と話す。

 資料館を後にしたのは入館の約10分後だった。4月に広島市であった外相会合で資料館を訪れたケリー米国務長官をはじめ、7カ国の外相たちは本館を中心に見学し、滞在は当初予定の30分を20分超えた。志賀賢治館長は「もっと時間をかけて回ってほしかったのが本音」と語った。

 資料館から姿を見せたオバマ氏の表情は終始、神妙だった。安倍首相を横に、原爆慰霊碑に向かってゆっくり歩を進める。白い花輪を手向けた後、その場に直立。思いをはせるかのように5秒間、目を閉じた。続く演説は約17分。「71年前、空から死が落ちてきて世界は変わった」。次第に口調は熱を帯びる。手ぶりを交えながら時折、目の前の参列者に真剣なまなざしを送った。

 表情が変わったのはスピーチを終え、被爆者に歩み寄った瞬間だった。日本被団協の坪井直代表委員(91)の手を握り続け、言葉に耳を傾けた。柔和な笑顔ものぞく。続いて歴史研究家の森重昭さん(79)=西区=にも近づいた。感極まった森さんの背中に手を回し、さすりながら言葉を掛けた。

 オバマ氏は若者にも温和な人柄を見せた。出席していた長崎市の日見中3年徳永雛子さん(14)に手を差し出す。「驚きました。大きな手で、とても温かかった」

 慰霊碑から北に歩みを進め、被爆建物のレストハウス横へ。オバマ氏は、禎子さんがモデルの「原爆の子の像」と、原爆ドームを見つめた。岸田外相の説明をうなずきながら聞いた。「この一帯は平和にとって大変重要な場所だ」。オバマ氏はそう言い残し、帰路に就いた。

 午後5時4分に西区の広島ヘリポートに降り立ち、同所を離れたのは6時36分。広島滞在は1時間32分。平和記念公園は52分だった。

(2016年5月28日朝刊掲載)

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