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「新たな一歩」「抽象的内容」 遺族ら 感慨や批判 オバマ氏広島訪問

 「父が生きていれば、新たな一歩を踏み出せたと感慨深かったでしょう」。戦後の広島市で初の公選市長となり、復興に尽力した浜井信三元市長(1905~68年)の長男順三さん(80)=広島市佐伯区=は、自宅のテレビでオバマ氏の言動を見守った。「現職大統領の訪問そのものが『ヒロシマの心』に通じる」と受け止める。

 原爆ドーム保存運動や原爆資料館建設を進め、「原爆市長」と称された父。原爆慰霊碑の「過ちは繰返しませぬから」という碑文に、父が繰り返し語った「ヒロシマの心」をみる。

 順三さんは「碑文の主語は人類全体を指す。原爆投下国のトップが碑前に立つことで、過去や国境、憎しみを越え、核兵器と戦争のない未来に向けて人類全体が踏み出せる」と感慨を込めた。

 一方、「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子共同代表(77)=同=は演説に怒りをにじませた。「自国が使った核兵器によって何が起こったかへの関心も感じられない抽象的な内容。原爆投下がいかに非人道的で、過ちであったか表明してほしかったが、完全に裏切られた」

 父は「核絶対否定」を訴え、被爆者として原水爆禁止運動をけん引した広島県被団協初代理事長の森滝市郎氏(1901~94年)。この日平和記念公園近くで開いた市民シンポジウムでも「和解や友情という名の下に、原爆投下の責任を追及できない空気がつくられている。私たちはもっと怒るべきだ」と力を込めた。

 被爆者援護と核兵器廃絶を訴える日本被団協の初代事務局長だった藤居平一氏(1915~96年)の妻美枝子さん(93)は、入院中の中区の病院で家族とテレビ中継を見た。藤居氏は繰り返し「まどうてくれ(元通りにしてくれ)」と声を上げた。美枝子さんは「二度と戦争はいけん。平和を返して」と静かに訴えた。(和多正憲、森田裕美)

(2016年5月28日朝刊掲載)

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