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社説・コラム

社説 ’16参院選 安保法制 戦後の「岐路」忘れるな

 参院選公示の日を迎えた。安倍政権に対し、有権者が評価を下す重要な選挙である。

 現時点ではアベノミクスの成否が焦点なのは仕方あるまい。きのうの党首討論会でも経済に関する議論が多くを占めた。

 9カ月前の国会を思い出したい。集団的自衛権の行使という封印を解いた、安全保障関連法が成立した日のことだ。政府・与党は憲法違反との指摘や野党の反対にもかかわらず、強引に審議を打ち切った。平和主義を掲げてきた戦後日本の岐路とも位置付けられ、国会周辺の抗議活動も熱を帯びた。

 今はどうか。3月に安保関連法は施行されたものの、目に見える変化がないためか世の中の関心が低下した感は否めない。しかし成立以来、補選を除いて初となる国政選挙は、その是非を考える絶好の機会だろう。

 安倍政権も国民の反対意見を踏まえ、「成立後も丁寧に説明を尽くしたい」と約束していたはずだ。なのに自民党も公明党も争点化を避け、それでいて選挙後に「信任を受けた」と言い張るつもりなら許されまい。

 今からでも検証すべき点は多い。そもそもひと口に安保法制といっても11本の難解な法律をひとくくりにしたもので、国会の審議も消化不良に終わった。現実問題として趣旨を理解できている国民がどれほどいよう。

 憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を認めた上に、「存立危機事態」というあいまいな定義を持ち出して日本が直接、攻撃を受けなくても武力行使ができる道を開いたこと。他国の戦争における後方支援の範囲を大幅に拡大し、かつ常時可能にしたこと。さらに国連平和維持活動(PKO)で多国軍などを救援する「駆け付け警護」を認めたこと…。いずれも、かつての感覚なら憲法9条に抵触すると考えられていた内容である。

 それを自衛隊員のリスクの増加すら認めないまま、日米同盟の強化ありきで一足飛びに前に進めたのは明らかだろう。

 思えば1991年のペルシャ湾への掃海部隊の派遣以来、自衛隊の海外任務は国民合意をあいまいにしたまま、なし崩し的に広がってきた。この調子なら将来、戦地を含めた任務はどうなっているか。賛否どちらの立場でも一度立ち止まり、足元を見つめ直すべきではないか。

 安保法制を巡る当面の具体的な動きは、おそらく南スーダンPKOに赴く陸上自衛隊への駆け付け警護の任務付与だろう。政府側は、参院選への影響を懸念して遅らせてきた節もある。考えようによっては、既成事実化する前に有権者が意思表示する余地が残ったともいえる。

 今こそ本質的な中身を問う論戦を与野党に求めたい。

 民進党、共産党など野党4党にとっては安保法撤回が共通政策であり、憲法違反という主張に力を入れる気持ちは分かる。ただ単に政権批判のスローガンに終わってはいないか。一方の与党側も日米同盟の強化と抑止力向上のため安保法制が必要だと繰り返し、これまでのところ水掛け論の域を出ない。

 自衛隊の果たすべき役割、日米安保のありようも含めて安全保障政策を掘り下げる覚悟が、どの党にも必要だ。不穏な動きを見せる中国や北朝鮮とどう向き合い、平和外交を構築していくかの論点も欠かせない。

(2016年6月22日朝刊掲載)

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