×

連載・特集

2016参院選やまぐち 上関原発 かすむ論戦 第一声で触れず 住民に物足りなさ

 参院選が公示された22日、柳井市の県柳井土木建築事務所に、中国電力社員の姿があった。手には、上関町で計画する上関原発建設に必要な公有水面埋め立て免許の期間を延長する申請書類。2019年7月まで、期間をさらに1年1カ月延ばす内容だった。(井上龍太郎)

 建設予定地では、11年3月の東京電力福島第1原発事故直後から準備工事の中断が続く。造成を担う共同企業体(JV)も進出し、本格着手する目前で工事はストップ。再開のめどは立っていない。中電と県との間で、埋め立て免許を巡る文書が行き交っているだけだ。

 延長申請は、12年10月、昨年5月に続き3度目。中電は「準備工事の再開から完成まで3年を要する。前回の申請から1年1カ月が経過したため」とする。同社はこの日、県から求められた補足説明の回答文書も送り、こちらは7度目となった。

審査長期化も

 原発に反対する上関町民の会の三家本誠共同代表(67)は「申請は取り下げるのが筋。県は一企業に肩入れし、無意味なキャッチボールをしている」。上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表(61)も「県は即刻不許可にするべきだ。観光振興など原発に頼らないまちづくりを進めたい」と話す。

 回答文書が県に届いた23日、村岡嗣政知事は県庁で「国のエネルギー政策における上関原発の位置づけが変わらないことの説明を求めている」と従来の見解を繰り返した。審査する材料が欠けていれば、8度目の補足説明を求める可能性を否定せず、審査のさらなる長期化も示唆した。

 原発活用の方針を鮮明にする自民党政権。昨年8月に九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働し、来月26日には上関町の離島、八島の一部が半径30キロ圏内の四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)も続く見通し。

 一方、村岡知事が見極めたいとする上関原発などの新増設について、政府は「現時点で想定していない」との立場を変えていない。

 1982年6月に浮上した上関原発計画。以来34年間、地元では原発の是非を巡る対立が続き、まちづくりの支障にもなった。この間、人口は3千人に半減し、高齢化率は既に5割を超えている。

エネ論議期待

 参院選山口選挙区に立ったのは、諸派の幸福実現党新人の河井美和子(53)、無所属新人の纐纈(こうけつ)厚(65)=民進、共産、社民推薦、自民党現職の江島潔(59)=公明推薦=の3氏。経済政策や憲法の在り方などを訴えている。だが、22日の第一声では3人とも原発への言及はなかった。

 「エネルギー政策は国の根幹。活発な論争を期待したい」と、計画推進派の上関町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長(57)。3氏は選挙カーで同町に入る予定だが、原発が争点から抜け落ちている感は否めない。

 推進派の上関町商工事業協同組合の角田五明事務局長(67)は案じる。「街頭演説を聞きに出る人も選挙のたびに減り、お年寄りばかりになった。陣営にはどう映るだろうか」

≪埋め立て免許を巡る主な経緯≫※肩書は当時

2008年10月20日 原発計画に反対する上関町の祝島の漁業者たちが免許             差し止め(後に免許取り消しに変更)を求めて山口地             裁に提訴
     10月22日 二井関成知事が中国電力に免許を交付
  11年 3月15日 福島第1原発事故を受けて埋め立て工事が中断
  12年 6月25日 二井知事が免許延長を認めない考えを表明
      7月29日 山本繁太郎知事が初当選。上関原発計画について二井             知事の方針を踏襲すると表明
     10月 5日 中電が免許延長を申請
     10月23日 県が中電に延長申請の最初の補足説明を要求。13年             1月30日まで計4回、繰り返す
  13年 3月 4日 山本知事が県議会代表質問で、可否判断を1年程度先             送りすると表明。不許可方針から転換
      3月19日 5度目の補足説明を中電に要求。回答期限を14年4             月11日に設定
  14年 2月25日 村岡嗣政知事が就任
      4月14日 5度目の補足説明の回答文書が中電から県に届く
      5月14日 村岡知事が6度目の補足説明を中電に要求し、可否判             断を先送り。回答期限を15年5月15日に設定
  15年 5月18日 6度目の補足説明の回答文書が中電から県に届く。中             電が2年8カ月の免許延長を県に申請
      6月22日 村岡知事が7度目の補足説明を中電に要求し、可否判             断を先送り。回答期限を16年6月22日に設定
  16年 6月22日 中電がさらに1年1カ月の免許延長を県に申請
      6月23日 7度目の補足説明の回答文書が中電から県に届く

(2016年6月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ