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選択2016参院選 米艦載機岩国移転 同盟強化 最前線の不安 防犯や騒音対策不透明

 オバマ米大統領が被爆地広島を訪問した5月27日。直前に姿を見せた岩国市の米海兵隊岩国基地は、歓迎ムード一色だった。会場の格納庫には日米の国旗が掲げられ、交互に整列した海兵隊員と海上自衛隊員。歓声と拍手の中、オバマ氏は終始にこやかに日米同盟の重要性を説き、岩国基地をこう表した。「日米の信頼と協力、友情の好例だ」

「基地との共存」

 「基地との共存」を掲げ、国防に協力姿勢を示す岩国市。米海兵隊と海上自衛隊が共用する岩国基地はさながら、安倍政権が進める同盟強化の象徴のようだ。日米が合意した在日米軍再編計画では、2017年ごろまでに米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機が隊員や家族計約3800人とともに移る。これによって、岩国基地は航空機約130機、隊員・家族約1万人の巨大な拠点基地へと変貌する。

 在日米海軍司令部の幹部は「周囲に人口が密集する厚木基地より、滑走路が海側に移設された岩国基地の方が安全に訓練できる」と移転の意義を強調する。

 艦載機移転に備え、市中心部の小高い愛宕山地区では米軍家族向けの住宅や運動施設の建設が進む。約45ヘクタールの広大な米軍施設エリアが市民生活と隣り合う。だが、17年まで半年に迫る今も詳細な移転時期や運用の在り方は示されず、「共存」の現実味は乏しい。

「沖縄化」を危惧

 参院選さなかの23日に「慰霊の日」が営まれた沖縄県。国内の米軍専用施設面積の7割以上が集中し、米軍関係者による凶悪犯罪が後を絶たない。米軍属が逮捕された女性暴行殺害事件を受け、岩国市でも11日、艦載機移転に反対する市民団体が緊急抗議集会を開いた。呼び掛けた「米兵の犯罪を許さない岩国市民の会」の大川清代表(58)は「岩国でも米軍関係者の事件事故におびえて暮らすようになる。(国や市が)安心安全といっても、日米地位協定の壁で泣き寝入りになる」と訴えた。

 日本の捜査や裁判権が制限される地位協定は繰り返し問題となってきた。24日には山口県議会が地位協定改善を求める意見書案を、岩国市議会は事件の再発防止を求める意見書案をそれぞれ可決した。だが、米側が協定自体の改定に応じたことはない。

 艦載機移転を巡り、国に43項目の安心安全対策と地域振興策を求めている岩国市の福田良彦市長。移転受け入れの最終判断は「国との協議の先にある」としつつ、現時点で「8割が達成または進展中」と評価する。だが、最も市民生活に影響する騒音への対策は、ほとんど進んでいない。

 岩国基地の騒音を巡る岩国爆音訴訟で、昨年10月の山口地裁岩国支部判決は初めて騒音の違法性を認め、艦載機移転後の騒音が高まると推認した。日米両政府は、移転後の訓練空域や離着陸の頻度を明らかにしておらず、運用次第では岩国以外の自治体にも騒音被害が及ぶ。移転受け入れへ工事が着々と進む半面、市民の安全確保は見通せない。

 「岩国は米軍にとって、市民の抵抗感が強い他の基地より使いやすい存在。騒音のたらい回しになりかねない」。基地監視団体「リムピース」共同代表で岩国市議の田村順玄さん(70)は、岩国の「沖縄化」を危惧する。市民の暮らしより、米軍や政府の都合が優先されることがあってはならない。(野田華奈子)

(2016年6月26日朝刊掲載)

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