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社説・コラム

社説 ’16参院選 原発政策 なし崩しの回帰危うい

 原発を巡る与野党の論戦が必ずしも深まっていない。参院選公示の日、第一声を福島県で発する党首もいなかった。

 自民党総裁の安倍晋三首相は直近の震災被災地である熊本県へとまず入り、午後からは福島へと回った。ところが、福島での街頭演説では原発問題に触れなかった。被災者には、どう映っただろう。各地で再稼働の動きが相次いでいるだけに、原発回帰に前のめりと受け取られても不思議ではない。

 対する民進党の岡田克也代表は激戦区と評判の山梨県を第一声の地に選んだ。前身の民主党時代には、「3・11」後の国政選挙では常に公示日は、福島に入っていた。事故当時の混乱を招いた、党の責任をよもや忘れたわけではあるまい。

 東京電力福島第1原発事故の「風化」の表れだとしたら、由々しき事態である。

 このまま低調な論戦でいいはずがない。事故はいまだ収束しておらず、原発を巡る問題は社会や暮らしの在り方にも大きく関わってくるからだ。

 各党の選挙公約をめくってみる。「原発ゼロ」や「脱原発」を、共闘する民進、共産、社民、生活の野党4党が明記したのに対し、自民は「再生可能エネルギーの最大限導入などで原発依存度を低減させる」と含みを持たせている。

 一方、連立与党を組む公明は「原発ゼロ」を書き込んだ。どう理解すればいいのだろう。分かりやすい説明が欲しい。

 有権者として聞きたい話は、まだある。

 一つは、老朽化した原発の取り扱いだ。福島事故の教訓から法改正で、原発の寿命に「40年ルール」を課した。それが高浜原発1、2号機(福井県)で、ほごにされようとしている。原子力規制委員会が、「例外中の例外」だったはずの20年の運転延長を認可したのである。

 必要な対策工事は、後回しである。拙速が過ぎる。それでも政府は、「規制委が安全と判断した原発は再稼働していく」と繰り返す。避難計画の実効性は審査の対象外で、周辺自治体の理解も十分に得たとは言い難い。なし崩し的な運転延長では、危うい限りだ。

 原発が身の回りになくとも、もはや対岸の火事ではない。

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地中深く埋める最終処分場の候補地については、国は年内にも選ぼうとしている。

 自治体の立候補を待つ方式では話が進まなかったためだ。「科学的有望地」の提示と選定に向けた調査受け入れとは別の話とするが、一体どうやって住民合意を得るつもりだろう。言うまでもなく、核燃料サイクル政策も行き詰まっている。原発依存社会からの出口を真剣に探るべきである。

 その点、政府が昨年定めた2030年の電源構成はどうだろう。目標の原発比率20~22%は、老朽原発の運転延長や新増設がない限り、実現しない。「原発依存度の低減」とは、明らかに矛盾する。

 必要な電気を賄うには、再生エネのさらなる普及を図るしかない。世界の潮流は、既に再生エネに向かっている。経済と暮らしの安全はてんびんに掛けられない。将来を見据え、責任ある議論を与野党に求めたい。

(2016年6月27日朝刊掲載)

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