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広島経済大岡本ゼミ  「オキナワを歩く」5年 追体験「命」見つめる

 太平洋戦争で地上戦の舞台となった沖縄戦から命の貴さを学ぼうと、広島経済大(広島市安佐南区)の岡本貞雄教授(宗教学)のゼミが取り組んでいる「オキナワを歩く」が今年で5年になった。「当時に少しでも迫ろう」と、各地の戦跡を徒歩で巡り、住民の体験を聞く現地学習。凄惨(せいさん)な記憶が刻まれる各地での追体験は、学生たちが「生きること」に向き合い、考える貴重な場となっている。(伊東雅之)

 「私たちが、どんなに当時の体験に近づこうとしても限界はある。でも、そこからさまざまな思いを巡らせるきっかけになったのは確か」。2月にあった今年の「オキナワを歩く」のリーダー徳永達也さん(25)=4年=は、このプログラムの意義を語る。

 2~4年のゼミ生54人が参加した今年は、那覇、糸満、名護市などの野戦病院、軍司令部の壕(ごう)跡や、慰霊碑など約20カ所を巡り、戦闘に加わった元男子学徒、負傷兵の看護に当たった元女子学徒ら6人から当時の話を聞いた。

壕内での看護

 女子学徒だった女性たちから語られたのは、壕内での看護の様子。薬や食料が不足し、砲撃の恐怖も加わる中、目を覆いたくなるような重症者の看護に当たった10代半ばの彼女たち。「『助けたい』と必死で救護活動しながらも『砲撃されるなら、苦しまずに済むよう一撃で…』と願ったという極限状態での話に絶句した」「『私の言葉に従って待避した友人が砲撃で亡くなり、今も自分を責め続けている』との話に、胸が締め付けられるような思いがした」。さまざまな証言が一人一人の心に刻まれた。

 米軍上陸後、山中を逃げた人々の体験に基づく徒歩での巡礼は、毎年コースを変えながら、50~60キロの道のりを3日間かけて歩く。その間、口にできるのは当時の乾パンに見立てた1日3個の栄養補助食品と飲料水だけ。

 「体の痛みと疲れ、空腹だけでも耐え難い苦痛なのに、いつ終わるともしれない不安と、死の恐怖に襲われていたなんて」「名の知れた戦跡だけでなく、自分たちが歩く地域のあちこちでも無念の死を遂げた人が大勢いることを知った」…。教科書や講義では感じ取れない苦しみや悲しみの一端に触れることができたと学生たちは口をそろえる。

記録誌作りも

 「いのちをみつめる」をテーマにする岡本ゼミが、沖縄巡礼を始めたのは2007年。戦争体験者を講師に招いて話を聞く中で、1945年3月、慶良間(けらま)諸島の米軍上陸から3カ月に及ぶ地上戦が繰り広げられ、20万人以上が犠牲になったといわれる沖縄戦に、学生たちの関心が向くようになった。「オキナワから学ぶには、できるだけ当時の状況を体感する努力も必要ではないか」との岡本教授の提案で現在のスタイルが定着した。

 毎回、現地で聞いた証言と自分たちの感想を記録誌とDVDにまとめ、出版している。「つらい気持ちに耐え、証言してくれた人たちの体験を将来に伝えるのも自分たちの責任」と徳永さん。活動を知った県内外の中学や高校から「教材にしたい」と注文も届くようになった。

 他の参加者からは「体験談をじかに聞き、自ら現地を歩くことで想像の範囲内とはいえ、自分に置き換えて痛みや悲しみを考えられた」との声も。「自分を見つめることこそ命の貴さを考える原点。そこから人の痛みも考えられる心が生まれると思う」と岡本教授。教授の願いも学生たちに受け継がれている。

(2012年4月23日朝刊掲載)

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