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日野原重明さん広島で講演 

 聖路加国際病院(東京)の理事長で、新老人の会会長の日野原重明さん(100)が20日、広島市中区のアステールプラザで講演した。東日本大震災や原発事故など「逆風」の世を歩む心の持ち方を説いた。講演要旨は次の通り。(野田華奈子)

出会い重ね 人生豊かに

逆風の中でも希望持って

 今から42年前、日航機「よど号」ハイジャック事件に遭遇した。当時の故山村新治郎運輸政務次官が身代わりになり、私たち乗客は解放された。韓国・金浦空港の地を踏んだ時、「私の命は与えられた」と思った。第二の人生が始まった。

 哲学者マルティン・ブーバーは「人は始めることさえ忘れなければ、いつまでも若い」と言った。私はこれから、童話作家になり、童謡の作曲もしようと思っている。毎週二つ、三つ作っている。思ったままを書けばいい。気取ってやるから難しい。

 父に教わった三つのVがある。大きな夢を見る「ビジョン」、思い切って行動する「ベンチャー」、勝利を得る「ビクトリー」。ビジョンを持って勇気ある行動をすれば、自然とビクトリーが完成される。ダンスやコンピューター、語学など、何でも1年生になって習えばできる。やらないからできないのであって、やればできる。

 東日本大震災の1カ月後、宮城県南三陸町を訪問した。命を喪失する危険はいつくるか分からない。がんなどの病気や交通事故、地震、津波、原発事故。戦争は絶対あってはならない。

 父は原爆投下の翌日、広島市内に入って被爆した。震災直後は、130余りの国が日本に救援を申し入れたという。核兵器保有国もあった。(災害援助に協力的なのに)なぜ、無差別に人を殺せる核兵器を持つのか。矛盾を感じる。

 自分の環境は、誰と交わるかによって変わる。出会いによって生き方が変わり、生きがいを知る。私の場合、先生や本、患者との出会いで成長できた。

 医師として初めて受け持った少女は亡くなる前、「母に感謝を伝えてください。私は死んでいきます」と言った。「ばかなことを言うな。頑張れ」と励ましたが、後に間違いだったと気付いた。なぜ死を受け入れなかったのか。この経験は、患者の不安を除いて静かに見送るホスピスケアの必要性を考えるのに役立った。

 生きがいに必要なのは希望を持ち、いろんな人と接触し、趣味やボランティア活動などに打ち込むこと。子どもが巣立ち、会社を退職すれば、自分の時間は増える。年を取るのは悪いことではなく、自由人になると考えたら素晴らしい。逆風を抜けるため、悩む友の心の中に希望と愛の種をまきましょう。

ひのはら・しげあき
 1911年、母親の郷里山口市で生まれた。京都帝国大(現京都大)医学部卒。41年、聖路加国際病院に内科医として勤務、院長を経て現職。2000年、高齢者の生きがいづくりを追求する新老人の会を結成。広島や山口など全国39支部に広がる。05年に文化勲章受章。父善輔さんは30~42年、広島女学院の院長を務めた。

(2012年4月27日朝刊掲載)

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