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社説・コラム

社説 政府の沖縄県提訴 和解の精神に立ち戻れ

 最善の解決策に向け、信頼関係を立て直すことが求められていたのではなかったのか。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古への移設計画を巡り、きのう、政府が県を相手取って違法確認訴訟を起こした。互いに訴えた裁判で和解が成立してから4カ月余り。国と県の対立が、再び法廷へ持ち込まれたことは残念でならない。

 今回の訴えは、翁長雄志(おなが・たけし)知事が前知事の辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した処分について、撤回を求めた国の是正指示に従わないのは違法だと確認を求める内容である。裁判で早期決着を図り、一刻も早く埋め立て工事の再開を目指したい国の姿勢の表れといえよう。

 福岡高裁那覇支部の審理において国と県は3月、県の埋め立て承認取り消しを巡る3件の裁判を互いに取り下げることで合意した。和解条項では司法手続きを一本化する一方、確定までは円満な解決に向けて協議を行う道筋が示されていた。

 国の是正指示の有効性について第三者機関の国地方係争処理委員会の審査を経た上で不服があれば、県があらためて国を提訴する手順となっていた。

 自分たちに有利と踏んでいた政府のシナリオが狂ったのは先月の係争処理委員会の結論だろう。判断を回避し、国と県に問題解決に向けた協議を促した。

 県はこれを受けて国を提訴する手続きを見送る方針を表明、あくまで話し合いによる解決を目指す姿勢を打ち出した。国から見れば決着の引き延ばしを図る戦術と映ったのだろう。和解条項にはなかった違法確認訴訟で応じた。しかし協議せよという係争処理委員会の意向にそぐうものとは思えない。

 菅義偉官房長官はきのうの会見で「和解条項に基づいて訴訟と協議を並行して進める」と強調したが、本音では協議よりも法廷での決着を優先する姿勢は隠しきれまい。

 沖縄県が国の強引な対応に反発したのも無理はない。知事も和解条項は有効だと認めながらも「あるべき民主主義国家の姿から程遠い」と批判した。

 安倍政権は沖縄の民意をどう考えるのだろう。6月の県議選では県議会与党が過半数の議席を占め、今月の参院選でも現職の沖縄北方担当相が大差で敗れた。いずれの選挙も新基地の建設反対が示されたといえる。にもかかわらず強硬路線に戻る姿勢は理解できない。

 その点では提訴と同じ日、沖縄の米軍北部訓練場のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)の建設工事に着手したのにも首をひねらざるを得ない。

 北部訓練場の部分返還の条件として日米政府が1996年に合意したが、当初計画とは違って垂直離着陸輸送機オスプレイが訓練で使うという。このため知事は「容認できない」とし、おととい県議会も建設中止を求める意見書を可決している。

 高裁支部の和解勧告に「沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意し、米国に協力を求めるべきだ」とあることを思い出したい。仮に国が違法確認訴訟に勝ったとしても、沖縄の理解なしで辺野古移設はうまくいくはずもない。来月5日に第1回口頭弁論があり、秋には判決が出る見通しだ。審理が進む前に国は訴えを取り下げ、県と真摯(しんし)に話し合うべきである。

(2016年7月23日朝刊掲載)

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