×

連載・特集

緑地帯 ハチロクをよろしく 出山知樹 <8>

 ヒロシマに関わり、人生経験を重ねてくると、身の回りで起きる出来事と71年前の原爆投下に至った経緯がふと、リンクしているように感じるときがある。

 今回広島に転勤してくる前、東京で仕事をしていたが、忘れられないのが2011年の東日本大震災である。大津波で2万人近くの尊い命が奪われた。取材を通じて感じたのは、津波が到達する前にその場を離れ、高い所に避難することが、命を守る最も確実な方法ということだった。

 しかし、実践することが難しい。今起こっている事態が自分の命を危うくすると気付くこと、そして実際に避難という行動をとることが難しいのである。

 原爆の惨禍はもちろん自然災害ではない。原爆を造るのは人間、使用を決断するのも人間、投下するのも人間である。では、繰り返さないための方法は何か。そもそも戦争を起こさないこと、核兵器をなくすことであるのは皆、分かっていると思う。しかし、それを実現するのが難しい。

 繰り返さないためには被爆体験を私たちの記憶にとどめなければならない。しかし、もう一歩進めることはできないだろうか。自分に何ができるのかを考え、ささいなことでも実際に行動に移すことが「継承」なのではないかと最近考えるようになった。

 先輩に「ハチロクをよろしく」と言われて20年。原爆投下を繰り返しかねない人間の意思や行動があるならば、やはり人間の意思と行動で、それを止めることができると信じたい。(NHKアナウンサー=広島市)=おわり

(2016年7月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ