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広島の惨状 直視の100首 正田篠枝の歌集「さんげ」 占領下の原本 市に寄贈

 広島で被爆した歌人正田篠枝(1910~65年)の原爆歌集「さんげ」の原本が26日、広島市に寄贈された。占領下の47年にひそかに発行した私家版の一冊。市立中央図書館(中区)や原爆資料館(同)も原本は所蔵していなかった。今後、原爆資料館で保管し展示も検討する。

 正田は爆心地から1・7キロの平野町(同)で被爆。「さんげ」を著した当時、原爆に関する出版は規制されていたが、連合国軍総司令部(GHQ)の検閲を受けず、150部を刷って知人らに配ったという。後の著書「耳鳴り」に「やむにやまれぬ気持で、秘密出版をいたしました」と記す。

 縦19センチ、横13センチ。表紙の題字は正田の手書きとみられる。<ピカツドン一瞬の寂(せき)目をあけば修羅場と化して凄惨のうめき><死ぬ時を強要されし同胞(はらから)の魂(たま)にたむけん悲嘆の日記>。被爆の惨状を直視した100首を収める。

 寄贈したのは仙徳寺(広島県北広島町)の精舎(しょうじゃ)智明住職(60)=安佐北区。「戦時中、正田さんの長男が寺に疎開した縁で譲り受けたのでは」と話す。10年前に父が亡くなった際、寺で遺品を整理中に見つけ、自宅で保管してきたという。

 この日、原爆資料館で市平和推進課の末定勝実・被爆体験継承担当課長に手渡した。精舎さんは「劣化が心配だった。正田さんとその歌を多くの人が知る機会につながれば」と期待を込めた。(石井雄一)

(2016年7月27日朝刊掲載)

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