×

ニュース

裁判官 上関を初視察 埋め立て訴訟 原発予定地・祝島

 山口県上関町で中国電力が計画する上関原発建設の予定地の埋め立て免許取り消し請求訴訟で、山口地裁の裁判官3人が28日、現地を初めて視察した。計画反対派の原告と、被告で免許を交付した県の担当者たちが同行。反対運動を長年続ける予定地対岸の離島、同町祝島も訪れた。

 現地視察は2件の取り消し請求訴訟の進行協議の一環で、埋め立て環境などを確認するのが目的。桑原直子裁判長たち3人は最初に祝島へ渡り、原告の一人の山戸貞夫さん(66)から、原発建設による漁場への影響や重大事故時に避難する難しさについて説明を受けた。一行は防火、防風の練塀と細い路地、急坂が続く集落を歩き、約4キロ東の予定地を目視。住民2人の自宅で聞き取りもした。

 予定地の田ノ浦湾周辺は船も使い、海上と陸地で視察。漁場でもある取水口の計画エリアなどに停泊し、操業への影響が懸念される海域を確かめた。原告側は国天然記念物のカラスバトやスナメリなど周辺に生息する生態系を写真パネルで紹介。被告側は特に説明をしなかったという。

 視察後、原告弁護団の小島寛司弁護士によると、裁判官は熱心にメモを取っていたという。小島弁護士は「原告適格が大きな争点。地元のリアリティーは伝わった」と手応えを強調した。県港湾課の担当者は「特段の感想はない」と述べた。

 約30年にわたる上関原発関連訴訟で、裁判官の現地視察は初めて。今回の視察は原告側が2015年2月に要望。桑原裁判長はことし3月、視察する方針を示した。次回公判は9月1日。(井上龍太郎)

【解説】審理動く可能性も

 山口県上関町の上関原発反対派の住民たちが視察を望んだ背景には、書面や法廷での説明では伝えきれない懸念を、裁判官にじかに把握してほしいとの狙いがあった。埋め立て免許取り消しを求める二つの訴訟は、いずれも提訴から間もなく8年。平行線をたどる審理は異例の視察を経て、大きく動く可能性がある。

 原告側は両訴訟で、埋め立ての目的である原発そのものを問題視。原発の安全性のほか、稼働後の温排水による漁場破壊、希少種を含む動植物の消滅など、立地で予想される被害を訴えてきた。高齢者が多く、家屋が密集する祝島は、重大事故時の速やかな避難が困難な点も訴えている。

 一方、県は当初から対決姿勢。免許交付の手続きで「県は原発自体の安全性は審査しない」と主張してきた。福島第1原発事故後も「原発の安全性は、国がその責任において審査する」との立場を取り続ける。

 今回、原告側は写真パネルも使い、「被害」のイメージ化に努めた。島の実情が伝わったと評価し、次回以降の公判で証人尋問を実現させたい考えだ。地裁は現地視察を踏まえ、原告適格をあらためて見極めるとみられ、審理は新たな局面を迎える。(井上龍太郎)

(2016年7月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ