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時間の流れ 独創的に 第16回広島国際アニメフェスティバル グランプリ 鄭多喜さん

 22日に閉幕した第16回広島国際アニメーションフェスティバル(広島市など主催)は、グランプリを韓国の鄭多喜(チョン・ダヒ)さん(33)の「空き部屋」が受賞した。入賞した日本人監督も含め、20、30代の若手の活躍が目立つ。来場した作家に思いを聞いた。(余村泰樹、石井雄一)

 2014年に続く2度目の出品で最高賞のグランプリを射止めた。受賞作「空き部屋」は、女性の部屋で記憶が積み重ねられては消えていく様子を、木炭を用いて柔らかに描く。審査員から「美しく独創的な手法でアニメーションに新しい選択肢をもたらした」と評価された。

 テーマは「時間の流れ」という。「人間は時間から逃れられない。監獄のようだけど、それがあるから生きられる。なくてはならないけど、孤独にもなる」。どこかはかなさを感じさせる絵で、時間の経過とともに全てがちりになっていくさまを静かに表現した。

 ソウルの大学を卒業後、パリに留学してアニメーションを学んだ。代表作「マン オン ザ チェア」は前回、14年の広島国際アニメーションフェスティバルで国際審査委員特別賞に入り、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭のグランプリも受賞した。

 現在はソウルを拠点にフリーで活動を続ける。「本作は受け入れられるか不安だった。グランプリをもらい、これからも作り続けていいんだと勇気をもらった」と喜ぶ。

 近年は室内の物語を描いているが、「今後は部屋の外にあるものをテーマに、自然を題材にした作品に挑みたい」と笑顔を見せた。

日本人監督3人入賞

国際審査委員特別賞 岡崎さん
優秀賞 坂元さん・山村さん

 日本人監督は3人が入賞を果たした。岡崎恵理さん(23)の「FEED」が国際審査委員特別賞に、坂元友介さん(31)の「ナポリタンの夜」、山村浩二さん(52)の「サティの『パラード』」が優秀賞に入った。

 多摩美術大に在学中、卒業制作で手掛けた初の作品を出品した岡崎さん。作品は、巨大で不可解な生き物が、子どもたちに決まった時間に食事を与えるさまが強い印象を残す。

 幼少期、共働きの両親に代わり、日替わりのベビーシッターの世話になった記憶がモチーフになっているという。「周りは受賞歴があったり、他の映画祭でノミネートされたりした方々ばかり。信じられない」と感激を語った。

 CMディレクターを務める坂元さんの作品は、和食でも本格イタリア料理でもないナポリタンスパゲティが、己を見失い徘徊(はいかい)する。「驚きと叙情感、そして不条理なユーモアにあふれる」と評価された。表彰式には欠席だった。

 山村さんは、エリック・サティのバレエ音楽「パラード」をアニメで再現した。「カラフルで分かりやすそうに見えて、実はなかなか理解されにくいのではと懸念していた。賞という形で理解を示してもらった」と喜ぶ。

 グランプリに2度輝くなど第1回から参加してきた。「広島は活動の指針になっている」と受賞をかみしめていた。

 その他の受賞は次の皆さん。(敬称略)
 【ヒロシマ賞】アンナ・ブダノバ「アモング ザ ブラック ウェーブズ」【デビュー賞】ガブリエル・アレル「ユル アンド ザ スネーク」【木下蓮三賞】ダビッド・コカール・ダソ「ペリフェリア」【国際審査委員特別賞】ナターリア・チェルニェソバ「トゥ フレンズ」▽ユリア・アゴノバ「ワン トゥ ツリー」▽イゴール・コバリョフ「ビフォア ラブ」▽セザール・ディアスメランデス「セポ」▽アニエス・パトロン、セリーズ・ロペズ「チュリーヌ ア クロウズ テール」【優秀賞】チンティス・ルンドゥグラン「ライフ ウィズ ハーマン H.ロット」▽リホ・ウント「ザ マスター」▽テオドル・ウシェフ「ザ スリープウォーカー」▽サミュエル・ヤル「ヌエヴュス」【観客賞】ナターリア・チェルニェソバ「ザ ゴッサマー」

(2016年8月25日朝刊掲載)

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