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社説・コラム

『記者縦横』 福島の子ら 自然存分に

■三次支局・八百村耕平

 「放射能の影響が心配で、地元では子どもに土いじりすることすら自制させている」。福島県郡山市から三次市吉舎町を訪れた母親の言葉が心に残る。

 8月上旬、東京電力福島第1原発事故の影響を心配する親子連れの保養ツアーを取材した。1~6歳の子どもを含む3家族10人が参加し、町内の民家で2泊3日を過ごした。

 ツアーのコンセプトは、「とにかく楽しむこと」。川遊び、木材でステッキなど思い思いの作品を作るクラフト体験…。参加者は田舎ならではの遊びを満喫した。晩ご飯の前の空き時間には、子どもたちは近くの水路で夢中になってカエルやイモリを追い掛けた。

 「ご飯ができたよ」と親が呼び掛けても「まだ捕まえたい」と答える。普段できない遊びだから、楽しさもひとしおだっただろう。

 ツアーは、原発事故後に広島県内に避難した住民たちでつくる実行委員会が毎年夏休み、福島県内などの親子を招き開く。実行委員の徳岡真紀さん(42)は「三次に住む自分だからこそ、自然を存分に楽しめるようバックアップしたい」と言う。

 三次支局に赴任して、およそ1カ月。広島市内に比べて商業施設が少なく、不便な点も多い。しかし、豊かな自然は何物にも代え難い。このツアーで出会った少女は、つかんだイモリを「すごく大きいでしょ」と自慢げに見せてくれた。その笑顔は忘れられない。都市部にはない魅力を掘り起こしていきたい。

(2016年8月26日朝刊掲載)

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