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社説・コラム

天風録 「『帰ってきたヒトラー』」

 いま、あの独裁者が現れたら…。そんな設定のドイツ映画「帰ってきたヒトラー」が、広島県内でも封切りされた。どっきりカメラ風に街に出る場面も挟まれ、喜劇と実写とが半々という虚実ない交ぜである▲認知症のお年寄り役がナチスによるユダヤ人大虐殺を思い出し、憤然としてなじる場面もあれば、ものまね芸人と勘違いした若者たちは握手を喜ぶ。ネット上に動画が拡散し、歯に衣(きぬ)着せぬ「彼」は人気者に。民主主義のもろさをあぶり出していく▲ネットで学習した「彼」は、現代ドイツの右派政党も気に入らない。唯一、緑の党に太鼓判を押す。節を曲げぬ自然保護の主張が「守れ、祖国を」と聞こえるらしい。ただ、「反原発は間違いだ。核兵器に利用できるのだから」と難じる▲途端に、客席が凍りついた。日本を疑う海外の目線に通じているからだろう。54基もの原発を回し、原爆数千発を造れるほどのプルトニウムを抱えている▲軍事転用の疑惑を抑えてきた高速増殖炉「もんじゅ」は20年以上、ろくに動かない。いまさら廃炉が国の選択肢とはあきれる。核燃料サイクルによるプルトニウム増産はもはや見果てぬ夢だろう。亡き者には墓場が似合う。

(2016年8月31日朝刊掲載)

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