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社説・コラム

社説 核実験自制決議 一歩前進だが物足りぬ

 爆発を伴う核実験の自制をあらゆる国に求める決議案が、国連安全保障理事会で採択された。主導したのは米国である。

 退任まで4カ月足らずのオバマ米大統領にとっては、核軍縮をアピールできる最後の国際舞台。「核兵器なき世界」の実現に向け、何としても実績を残したかったのだろう。

 決議は、核爆発を伴うあらゆる核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の重要性と緊急性を強調している。CTBTは採択されてから20年もたつのに、米国や中国など8カ国が批准しておらず、インドや北朝鮮は署名もしていない。存在感の薄れるCTBTについて、国際社会があらためて早期発効を誓い合ったことには、核軍縮に向けた一定の意義を認められよう。

 ただ、どこまで実効性があるだろうか。広島や長崎の被爆者からも案じる声が聞こえる。

 残念なのは、決議に拘束力を持たせられなかったことである。当初は制裁に道を開くための文言が盛り込まれていたが、途中で削除された。核実験の監視施設を持つ国々に定期的に報告の義務を課すはずが、努力を促すにとどまった。

 内容が大きく後退し、「骨抜きになった」と批判されても仕方あるまい。中国やロシアに加え、米議会の野党共和党の反発も強かったようだ。

 しかも、決議の実際のターゲットは限定的である。爆発を伴う核実験を繰り返しているのは北朝鮮だけで、中国やロシアなど五大核保有国は今世紀に入り実施していない。米国は、核兵器の性能維持などに必要な核爆発を伴わない臨界前核実験を行っているのに、これは決議の対象から除かれている。

 今回、名指しこそ避けたものの、5回目の核実験を強行した北朝鮮を念頭に置いているのだろう。ただ拘束力を持たない決議が圧力になるのかどうか。

 オバマ大統領は、5月に広島を訪問したことで「悲劇を繰り返してはならない」との思いを強くしたと伝えられている。それを境に、新たな核政策見直しへと動いたことは被爆地として前向きに受け止めたい。

 見直しの一つに、米国から先に核攻撃を仕掛けない「先制不使用」も持ち上がったものの、「核の傘」の弱体化を懸念する同盟国や軍の抵抗が強く、風前のともしびとなっているようだ。なかなか前に進めない中で、今回の決議はよほど実現させたかったに違いない。

 とはいえ、この決議を手放しで喜べないのには、もう一つの理由がある。核兵器禁止条約に向け、10月から国連で本格化する議論をけん制する狙いが透けて見えることである。

 核兵器禁止条約は、核兵器の開発や実験、使用を全面禁止し、保有国には核廃棄を義務付けるものだ。非保有国でこの条約をつくろうとする機運が勢いを増しているが、核保有五大国はそっぽを向いている。

 今回の決議では、五大国に核保有を認める核拡散防止条約(NPT)を、核軍縮追求の「重要な基礎」とうたった。特権的な立場を守ろうとする大国の姿勢が表れている。

 核保有、非保有の両勢力が、核兵器禁止条約の議論で着地点を探れるのか。さらなる一歩を見いだしてほしい。

(2016年9月25日朝刊掲載)

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