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社説・コラム

社説 ハリアー墜落 危険な訓練 即時中止を

 沖縄本島沖約150キロの東方海上で、米海兵隊に所属する攻撃機AV8Bハリアーが墜落した。訓練水域だが、季節によっては周辺で地元漁船が操業する海域であり、危険極まりない。市街地なら住民を巻き込んだ重大事故につながったはずだ。

 沖縄県内の関係市町村長の間ではハリアーによる訓練の即時中止と撤退を求める声も上がっている。事故を受けて海兵隊は同機種の運用を一時停止すると発表したが、当然だろう。原因を徹底究明した上で、うやむやにせず公表してもらいたい。

 ハリアーは垂直・短距離離着陸が可能な1人乗り攻撃機だ。沖縄県が本土復帰した1972年以降、18回にわたって墜落事故や部品落下を起こしている。

 今回の機体は米海兵隊岩国基地(岩国市)から飛来したとみられる。嘉手納町や沖縄市などにまたがる米空軍嘉手納基地を離陸した後、訓練水域で墜落し搭乗員は脱出、救助された。

 沖縄に在日米軍専用施設面積の74%が集中し、それに伴う広大な訓練水域や訓練空域を抱えていることが背景にあろう。

 このため嘉手納基地ではハリアーのような、常駐機以外の「外来機」が離着陸回数を押し上げている。つまり県外に訓練移転しても、外来機が頻繁に飛来すれば、沖縄にとって基地負担の軽減にはつながらず、騒音と危険性は増すばかりである。

 しかもハリアーは低空飛行や急降下を伴う危険性の高い訓練を行う機種だ。事故の有無にかかわらず、外国の戦場に直結するような訓練が行われていること自体、日本の主権をないがしろにしているといえないか。

 就任後初めて沖縄を訪問した稲田朋美防衛相も、墜落事故に言及せざるを得なかった。翁長(おなが)雄志(たけし)知事との会談では「居住地で事故が起きていたら大惨事だった。大変遺憾だ」と述べ、米軍に原因究明と再発防止の徹底を要求したと説明している。

 しかし、うるま市沖で起きた昨年8月の米陸軍ヘリ着艦失敗の原因も明らかにされないまま、今回の墜落事故が起きたことに地元の不信感は根強い。

 2013年に宜野座村のキャンプ・ハンセン内で起きた米空軍救難ヘリコプターの墜落事故では、警察や消防が事故直後から基地立ち入りを拒否された。日米地位協定の排他的管理権に基づいて、日本の国内法が適用されないケースも問題である。

 米軍が事故原因をうやむやにし、訓練を早期再開することのないよう、稲田氏は毅然(きぜん)とした姿勢を示すべきだろう。

 ハリアー事故を受け、山口県や岩国市なども、岩国基地と国に原因の早期究明と再発防止の徹底を求めた。

 廿日市市の市民団体は「岩国基地の近隣に住む広島県民には不安や恐怖感が高まっている」として、原因を究明して公表するまで、同機種の飛行を中止するよう求める要請書を首相官邸などに送った。

 普天間飛行場の名護市辺野古への「移設」について稲田氏は「危険除去のため」と翁長氏に理解を求めたが、相次ぐ米軍機の事故への対応を抜きにしたままでは到底受け入れられまい。「戦後、日本の安全保障の大半を支えてきた県民に対し、いろいろな意味合いで理不尽な状況だ」という翁長氏の発言を、政府の方こそ理解すべきではないか。

(2016年9月26日朝刊掲載)

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