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被爆前の日常 物語る品々 広島の原爆資料館敷地 出土品の復元進む

「あの日」の衝撃伝わる

 広島市中区の原爆資料館本館敷地で続く市の発掘調査と並行し、膨大な出土品の復元や実測作業が進んでいる。食器やガラス瓶、銭貨、記念品など、いずれも被爆前の市民生活とともにあった品々だ。原爆投下まで家屋や商店が軒を連ねた旧中島地区の日常と、それを一変させた「あの日」の衝撃が浮かび上がる。(林淳一郎)

 中区幟町にある市文化財団の作業室。専属スタッフが、出土品に付着した土を洗い落とし、陶磁器片などを接合する復元作業や、報告書に載せる実測図の作製に取り組んでいる。

 発掘調査は、資料館本館の免震工事を前に昨年11月下旬に始まった。爆心地の南西約400メートル。調査エリア約2200平方メートルの東側から掘り進め、5月のオバマ米大統領訪問や8月の平和記念式典で中断したものの、9月初めに再開している。出土品はこれまでに専用コンテナ(縦63センチ、横44センチ、高さ10センチ)約350箱分に上る。

 中心は茶わんや皿などの陶磁器類で、鍵やコインといった金属製品、原爆の熱線で表面が溶けた瓦片も多く見つかっている。地下倉庫跡からは栓が付いたままのビール瓶も出土。同じ倉庫内にあった手のひら大の金属ケースは五つの輪などがデザインされ、類例品から、1936年のベルリン五輪を記念したたばこ入れとみられている。

 調査エリアには戦前、民家や理髪店、銭湯、幼稚園が立ち並んでいた。調査を担う市文化財団の荒川正己主任学芸員は「被爆した焦土層の下からは、きれいな瓦片が出る。さらに掘り下げると、江戸期の人々が使った土鍋なども。原爆の甚大な被害はもちろん、連綿と紡がれた広島の街の歩みを感じ取れる」と話す。

 市平和推進課によると、発掘は今年中に終える方針。15日、調査現場を市民に公開し、出土品の一部も特設展示する(荒天の場合は16日に延期)予定だが、「出土品全体の保管や公開についてはスペースの課題もあり、今後検討していく」という。

 過去の事例では2000年、今回と同じく平和記念公園内で、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の建設に伴う発掘調査があった。4千点余りの出土品は原爆資料館に収め、江戸期から被爆後までの地層の一部も剝ぎ取って平和祈念館に常設展示した。

 当時、調査に携わった石丸紀興・元広島大教授(都市計画史)は「今回の発掘調査も被爆地の歴史と向き合う貴重な機会。出土品などの保存、公開の場の工夫に、より積極的に取り組んでほしい。被爆建物を活用するのも一つの道だろう」と指摘する。

(2016年10月7日朝刊掲載)

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