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米軍機飛行目撃件数 前年上回る 11年中国地方

独自の騒音測定器 設置急務

 2011年に中国地方で目撃された米軍機の飛行回数が、前年を上回った。広島県は過去最多、島根・岡山両県も過去4年間の最大値だった。背景には、地域住民の関心の高まりが見て取れる。空母艦載機の米海兵隊岩国基地(岩国市)への移転は目前に迫っており、各自治体は目撃情報の共有手段を早急に確立することが求められる。(編集委員・山本浩司)

 11年の中国地方の米軍機飛行目撃件数は、年度で集計する広島2048回(前年度1479回)▽岡山20回(同7回)▽鳥取14回(同1回)、暦年で集計する島根240回(前年209回)だった。山口県はこれまで岩国基地周辺を除いて飛行を確認していない。

 広島は記録を取り始めた1997年度以降では最多。島根・岡山は08年以降で最多だった。

 では岩国基地の離着陸は多かったのだろうか。国が同基地滑走路北端に設置する騒音測定器のデータを見てみよう。

 昨年度は前年度を4160回も上回る2万2537回の騒音(70デシベル、3秒以上)を測定した。だが、過去5年間のピークは07年度の2万6237回。この年、広島での目撃件数は11年度の半分以下、977件だった。

 目撃件数はあくまでも住民らの通報に基づいている。島根県消防防災課は「人口密集地を飛行すれば、1飛行当たりの目撃件数は多くなる」という。

二つのルート

 事実、岡山では昨年度の20件中18件は9月26日の1日だけに集中した。この日午後、岩国基地所属のFA18ホーネットが2機同時に、人口密集地の岡山、備前、倉敷の各市と早島町上空を飛行したためで、目撃情報と騒音苦情が相次いだ。

 実際の飛行回数とギャップが生じる目撃件数。しかし、「日米両政府や在日米軍に対し、低空飛行の中止や地域への配慮を要請する根拠として意味は大きい」(広島県国際課)との見方はある。

 あらためて過去4年間、飛行が目撃された自治体を見ると、4県合計で22市13町、全体の4割に達する。その分布と昨年30回以上目撃された自治体を地図にしてみた。

 浮かび上がったのは二つの飛行ルート。中国山地上空を東西に延びる低空飛行ルート(ブラウンルート)と、島根・山口の陸上から海上に広がる訓練空域(エリア567)と岩国基地を結ぶ飛行ルートだ。

 「飛行に伴う騒音が激しく、住民の関心が高まって目撃件数を押し上げている」。「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」の坂本千尋事務局長は分析する。

 ただ、小さな集落では情報を「苦情」と誤解して、通報をためらう人が多いという。坂本さんは「自治体は情報提供であることを住民に広報し、そうした情報を吸い上げやすい仕組みをつくるべきだ」と提言する。

国に働き掛け

 米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国への空母艦載機移転は目前に迫っている。艦載機移転までに騒音の客観的測定法を確立すれば、移転後の騒音変化が明確になる。

 米軍基地を抱える14都道県で構成する渉外知事会は昨年、国への要望として、低空飛行による騒音測定を国の責任で実施することを新たに盛り込んだ。働き掛けたのは広島県だった。

 だが、国の対応を待っている時間的余裕はない。山口県も加わった中国地方5県は、一体で独自の騒音測定器設置を進めることが急務だ。得られた情報を共有することで、飛行と騒音の広がりを把握し、国と米軍にもの申すことができる。

(2012年6月24日朝刊掲載)

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