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【解説】核兵器禁止条約 国連委決議 問われる被爆国の責務

 「核兵器禁止条約」の制定へ、多国間の交渉が始まる見通しとなった。近年、非核兵器保有国や非政府組織(NGO)が主導してきた、法的禁止を目指す動きが一つ、実を結んだ形だ。「核兵器の非人道性」を訴え続けてきた被爆者の悲願である核兵器廃絶へ新たな一歩を踏み出したと言える。

 国連総会第1委員会(軍縮)で、禁止条約の決議案を主導したメキシコとオーストリアは2014年に核兵器の非人道性に関する政府主催の国際会議を開くなど、国際世論を盛り上げてきた。平和首長会議(会長・松井一実広島市長)は20年の廃絶へ禁止条約の締結を早くから主張。日本被団協も核兵器を禁止し、廃絶する条約を求める国際署名運動を提唱し、官民の取り組みは結集しつつある。

 根底にあるのは、保有国主導の軍縮が停滞している現状への不満であり、「核抑止力」に頼る安全保障体制への警鐘だ。

 にもかかわらず、今回の決議案の採決で、日本は米国の「核の傘」に依存する安全保障体制の維持を優先し、米国の意向に沿うかのように反対票を投じた。条約を巡って保有国と非保有国の対立が深まる中、「橋渡し役になる」と公言してきた被爆国は、立ち位置は保有国側にあると国際社会に印象付けたことになる。

 真の橋渡し役を目指すのなら、保有国を禁止交渉に引き入れる努力こそが求められる。オバマ米大統領が広島市を訪れ、原爆慰霊碑の前で核兵器なき世界を追求する勇気を語って5カ月。安倍晋三首相も碑前に廃絶を誓った。その歴史的意味を、日米が薄めることがあってはならない。(田中美千子)

(2016年10月29日朝刊掲載)

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