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核なき世界 高い壁実感 禁止条約推進へ 力結集 「核先制不使用 米断念」被爆者反応

 米政権が核兵器の「先制不使用」宣言の採用を見送ったのを受け、被爆地広島に25日、失望が広がった。27日でオバマ米大統領の訪問から半年。遠き「核兵器なき世界」の現実を、またもや突き付けられた形だ。被爆者たちはこの日、国会内に集い、来年の「核兵器禁止条約」の制定交渉に日本政府が推進の立場から参加するよう気勢を上げた。

 「被爆者の訴えが届かず歯がゆい」。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(74)は新聞報道で見送りを知り、肩を落とした。オバマ氏が広島市の平和記念公園(中区)を訪れ、被爆の実態を短時間でも見聞きして帰ってくれた結果が核政策の見直しにつながると期待していた。

 広島市の松井一実市長も市役所での記者会見で「残念だ」と語った。ただ、「核兵器なき世界」を追求する勇気を呼び掛けたオバマ氏のヒロシマ演説の重みを強調し、「退任後も連携を取れることがあれば、一緒にしたい」と望んだ。

 原爆資料館(中区)によると、オバマ氏の訪問後、10月末までの入館者数は昨年度比18%増。「オバマ効果」は続いている。半面、この間に米政府は国連総会第1委員会(軍縮)で核兵器禁止条約の交渉入りを定めた決議案の採択に反対。そして、被爆国政府も足並みをそろえた。失望を重ねた被爆者たちの批判の矛先は「石頭だ」(箕牧副理事長)と日米両政府に向く。

 「日本は国家の安全保障を重視し、核兵器禁止の流れに逆らった」「今こそ市民の力で国を動かそう」…。日本被団協などの呼び掛けで国会内であった緊急集会には広島、長崎両市の被爆者を含む約110人が参加し、口々に訴えた。

 代表が開会前に外務省を訪れ、条約推進へ転じるよう迫ったが、担当者から前向きな回答はなかったという。もう一つの広島県被団協(佐久間邦彦理事長)の大越和郎事務局長(76)は集会で「政府の本音が露呈した」と非難。「条約ができれば核抑止論を打ち破る歴史的な転機になる」とし、実現に向けた国際署名運動への注力を呼び掛けた。

 長崎の被爆者で日本被団協の谷口稜曄(すみてる)代表委員(87)は体の不調をおして出席。壮絶な闘病生活を強いられ続けた人生を振り返り、「再び被爆者をつくらないため運動してきた。生きているうちに地球上から核兵器をなくしたい」と訴えた。(岡田浩平、田中美千子)

(2016年11月26日朝刊掲載)

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