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被爆者人物画 娘の元に 故竹本さんの穏やかな晩年描く 

画家稲田さん「平和の思い広めて」

 日本画家の稲田善樹さん(76)=東京都稲城市=が、2010年に93歳で亡くなった広島の被爆者竹本ハルコさんをモデルにした人物画を、広島市西区に住む遺族に贈った。穏やかに過ごしていた晩年の姿を通じ「平和の思いを広めて」と願う。(坂本顕)

 縦80センチ、横60センチほどの和紙に岩絵の具とにかわで描いた作品。腰掛けて前を見つめる白髪の女性を斜めから捉える。背後に描いた柱のえんじ色は、南三篠町(現西区)の自宅で被爆した竹本さんが見た火の海を表す。

 稲田さんは戦後60年を前にした04年、安佐北区の原爆養護ホーム「倉掛のぞみ園」を訪問。同園に入所し、「今は不自由なく暮らせて幸せ」と繰り返す竹本さんから被爆体験を聞きながらスケッチした。作品には「生き延びてきた60年を見つめ、戦争を二度と起こしてはいけない」との思いを込めたという。

 05年に都内と新潟県で開いた個展で披露。その後は自宅で保管していたが、人の目に触れないのはもったいないと思い、今秋にのぞみ園に連絡すると、竹本さんは亡くなっていた。長女の林玲子さん(75)を紹介してもらい届けた。

 稲田さんは旧満州(中国東北部)生まれ。終戦後すぐ久井村(現三原市)に引き揚げ、19歳まで県内で過ごした。

 「平和への思いを広げてほしいという広島へのエールとして贈った」と稲田さん。自宅に飾る林さんは「母は、あんな悲惨なことはもう起こしてはいけないと言っていた。身近にいるように感じる」とかみしめた。

(2016年11月27日朝刊掲載)

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