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被爆の実態 米で共有 米学者のリさん 小倉さん招き集会 

広島での講座が縁 若者への継承に意欲

 米国ロサンゼルス市近郊のポモナ大で、英語で被爆証言を続ける小倉桂子さん(79)=広島市中区=を招いて原爆被害の実態について理解を深める集会があった。企画したのは、同大助教の政治学者で広島市立大(安佐南区)でも研究活動を行ったトム・リさん(32)。ヒロシマでの出会いと体験を母国で多くの人と共有する試みに、小倉さんも喜んでいる。(金崎由美)

 リさんは、カリフォルニア大で日米同盟関係や東アジアの安全保障問題などを研究していた4年前、広島市立大の夏期講座に参加、小倉さんの証言を聞いた。被爆当時の惨状や核兵器のない平和な未来を説く姿に強い印象を受けたという。「ほとんどの米国人は広島へ行くことができない。将来大学に職を得たら、若者たちに知ってもらう機会を作りたい」と志した。

 2013~15年には奨学金を得て広島市立大にも滞在し、戦後日本の反核世論の影響力について調べた。博士号を取得し、ポモナ大に念願の職を得た昨年、小倉さんを招く構想を具体化。大学の賛同を得て全学規模の企画に発展させた。

 集会では、小倉さんが約1時間半講演。アジア系の学生から、戦争中の日本の軍国主義を問う発言があった一方、「戦争経験を平和な未来への力にしようとする姿勢に感銘を受けた」との意見もあったという。

 「私の証言をきっかけに、一期一会という小さな種を米国で大きく育ててくれていると知った。自ら関心を持って広島を訪れてくれる人だけではなく、こちらから出向いて多様な原爆観を持つ人たちに語り掛ける大切さにも気付かされた」と小倉さんは語る。

 リさんの広島での研究に協力した縁で、被爆樹木を世界に広めている市民団体「グリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブ」の渡部朋子共同代表(安佐南区)も招かれた。被爆イチョウの種から育てた苗木を植樹し、大学院で平和授業も行った。「米国はオバマ政権からトランプ政権に交代する。日米の市民レベルで平和への思いをつなぐ活動が今後ますます重要になる」と話す。

 ベトナム戦争中、ボートで母国を逃れた難民だった両親を持つリさん。「人はなぜ争うのかを常に考え、研究にも打ち込んできた」。さらに「ヒロシマを通して国際関係や政治だけでなく、命という面から『人間の安全保障』をより意識するようになった」。次は被爆者の体験を受け継ぐべき若い世代を招いて集会を開く構想を温めている。

(2016年11月28日朝刊掲載)

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