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連載・特集

広島の世界遺産20年 原爆ドームと厳島神社 <1> 訪問増で受け入れ課題

 原爆ドーム(広島市中区)と厳島神社(廿日市市宮島町)の世界遺産登録が決定し、6日で丸20年を迎える。国内外を問わず訪問者は増え続け、核兵器の惨禍や歴史的な景観美を伝える。一方で被爆者や島民の高齢化が進み、人類共有の財産をどう継承するかが課題。広島県の二つの世界遺産を取り巻く現状を追う。

 原爆ドーム近くにあるゲストハウス「THE EVERGREEN HOSTEL(エバーグリーン・ホステル)」。ラウンジで会話と笑顔が弾む。11月中旬の平日、宿泊した外国人は13人いた。スペインから初来日したヒメナ・シルバさん(40)は「ドームを見学して広島で起きた現実に直面した」と感傷的に語った。

 4月にケリー米国務長官たち主要国の外相が足を運び、5月にはオバマ米大統領も眺めたドーム。世界最大の旅行口コミサイトが毎年まとめる、外国人に人気の国内観光地ランキングでは、ここ3年続けて原爆資料館(中区)とのセットで2位だ。2015年の市の外国人宿泊客は約57万人で、世界遺産登録10年の06年から約2・4倍に。被爆地の不動の「証人」は旅行者を引き付けている。

違法民泊が横行

 「外国人観光客をもてなす仕事がしたくて」。エバーグリーンのオーナー梅本葉月さん(29)は約600万円を投じ、6月に開業。ビルの1フロアを改修し、旅館業法の簡易宿所の許可を得た。相部屋で1泊2千円台から。欧米人たちから順調に予約が入る。

 市内ではこうしたゲストハウスが10軒前後でき、宿泊者同士の交流を生む。観光消費額は11年1508億円から15年2167億円へと4割増し。「平和観光」の好影響は見て取れる。

 ただ、いいことずくめでもない。その一例がドームを含む平和記念公園周辺で横行する「違法民泊」だ。

 無許可、有料でマンションの一室などに客を泊め、安全や衛生管理は不透明。近隣住民や同業者とのあつれきも起きる。市は7月、米国発の民泊仲介サイトを調べ、市内の登録264件のうち9割超が違法だと確認したが、指導しようにも「大半は所在地すら分からない」という。違法民泊は、ドームに象徴される「平和への思い」の共有を脇に置いた、ビジネス優先の風潮を映し出す。

入島税 検討進む

 もう一つの広島の世界遺産、厳島神社がある宮島では、観光客の増加により島民の負担が増す可能性がある。15年の来島者は約402万人で、06年の1・4倍に増えた。廿日市市は公衆トイレの混雑などを問題視。世界遺産の島を国際的な観光地として整備する目的で、島民を含めて島に入った際に課税する「入島税」など法定外目的税の導入の検討を進めている。

 市の想定にはフェリー桟橋を通る際に100円を徴収する案もある。島に60年以上暮らす男性は「対岸への通学や通勤でも年数万円の負担。島から出て行かざるを得ない」と不満顔だ。

 市は08年にも導入を検討したが、景気後退などを受けて見送った。再び浮上した背景には厳しい財政がある。世界遺産を抱える地方都市は観光を活力にしながら、市民の思いや暮らしとのはざまに揺れ続ける。(渡辺裕明、山瀬隆弘)

(2016年12月1日朝刊掲載)

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