×

ニュース

ピカソの祈り 小説に込めて 原田マハさん広島で講演

 「小説の分野からアートをサポートする」をテーマに据え、物語を紡いできた作家の原田マハさん(54)が広島市で講演した。直木賞候補にもなった小説「暗幕のゲルニカ」(新潮社)で取り上げた画家パブロ・ピカソを軸に、岡山での作品との出合いや広島への思いを語った。

 「暗幕のゲルニカ」は、反戦を掲げたピカソの絵画「ゲルニカ」にまつわる、ある「事件」が執筆のきっかけになった。2003年2月、米国務長官が国連本部でイラクへの武力行使について演説した際、背景にあった「ゲルニカ」のタペストリーが布で覆われていた出来事だ。

 同じ年の6月、スイスを訪れた原田さんは、展覧会で「ゲルニカ」の別のタペストリーを目にする。そこには、主催者の「いくら暗幕で隠してもピカソの本当のメッセージを隠すことはできない」といった言葉が添えられていた。「見た瞬間、非常にしびれた。自分の小説の中で『ゲルニカ』の暗幕を引き剝がすと心に決めた」

 東京生まれの原田さん。10歳の夏、岡山に単身赴任していた父親に連れられて大原美術館(倉敷市)を訪れ、ピカソの絵「鳥籠」に出合う。「下手すぎると思った。私だったらもうちょっと描けると、帰ってからすぐに鳥籠の絵を描いたことを覚えている」

 その後、関西学院大に進学。21歳の時、京都市美術館でのピカソ展で「人生」という作品を見て、「ピカソって天才だったのだと初めて分かった」。それからは「私を創作の道へと導いてくれる存在として、常に傍らにいるような気がする」という。

 小説は、第2次世界大戦前夜のパリと現代の二つの時空が交錯する中、驚愕(きょうがく)のラストを迎える。「私は、このラスト1行を書くためだけに、ピカソを長い間追い掛けてきた」と力を込める。

 講演は、書店チェーンの広文館(広島市中区)の招きで、ピカソ作品を所蔵するひろしま美術館(同)で行われた。「ゲルニカ」について広島の地で言及する感激を語り、「平和を祈る思いがピカソには生涯、宿っていたと思う。これからも平和を祈り続ける広島市民であってほしい」と締めくくった。(石井雄一)

(2016年12月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ