×

連載・特集

日露首脳会談を前に <2> 湯本温泉旅館協同組合青年部長 伊藤就一さん=長門市 

知名度アップへの好機

 安倍晋三首相が長門市での日ロ首脳会談の開催を表明した9月以降、多くのお客さまから反響があった。湯本温泉の旅館での会談が想定される中、半信半疑でもあったが、関係者のための客室繰りなど準備も進み、実感が湧いてきた。

 湯本温泉は緑に囲まれ、夏にはゲンジボタルが飛び交う自然豊かな風景が魅力。これほどの地方での首脳会談はそうないのでは。プーチン大統領にとっても新鮮なはずだ。私は生まれも育ちも湯本温泉。とても誇らしい。

 昨年の湯本温泉の宿泊客は約21万人。ピーク時の1984年に比べ約半数となっている。

 これまでは西日本からの中高年の宿泊客が中心で、新規客の獲得や全国的な知名度の低さが課題だった。「日ロ首脳会談が行われた温泉地」となれば「湯本」の名が全国、世界へと発信される。会談後、外国人観光客を含む幅広い世代の来訪に期待している。

 市内の元乃隅稲成神社は昨年、米国のニュース専門放送局CNNの「日本の最も美しい場所31選」に選ばれ、外国人観光客からの注目も集まる。

 台湾、マレーシアなどアジアを中心に海外からの宿泊客が増えた。こちらの想像を超えた場所への興味もあって、韓国からの宿泊客から「隠れキリシタンゆかりの場所を見に行きたい」と尋ねられ、うまく説明できなかったこともあった。市の観光協会と協力して情報収集を進め、外国人観光客向けのおもてなしも検討したい。補助金を活用した外国語の案内板や観光パンフレット作りも必要だ。

 湯本温泉では旅館の経営者は60~70歳代が中心で高齢化も進み、2014年には150年の歴史を持つホテルが廃業した。市は、同ホテル跡の再生のため、高級旅館「界」を運営する星野リゾートホールディングス(長野県軽井沢町)に旅館の建設を打診。話がまとまり19年開業を目指す。

 青年部のメンバーは私を含めて30~40歳代の4人だけ。若手が少ない中でも、新規客獲得のためのイベント開催に取り組んできた。温泉で働く湯女(ゆな)が恋心を手紙にしたため流したとの音信川(おとずれがわ)の伝説にちなみ、バレンタインデーの花火イベントなどを企画し「恋人の聖地」としての売り出しに力を入れている。

 首脳会談開催や大手企業の進出で、まちの売り出し方も変わっていく。企業や市と連携しながら模索していきたい。(原未緒)

いとう・しゅういち
 長門市深川湯本生まれ。大津高、西南学院大を卒業後、滋賀県内のホテルで2年間勤務。実家の旅館・玉仙閣を継ぐため2003年に帰郷し、専務取締役に就いた。14年から湯本温泉旅館協同組合青年部長。

湯本温泉
 長門市深川湯本に12の旅館・ホテルと2カ所の公衆浴場があり、山口県内最古とされる温泉地。1427年に大寧寺の住職定庵禅師が座禅中に住吉大明神からのお告げを受け発見したと伝わる。江戸時代には藩主の毛利氏も湯治に訪れたという。恋文伝説から、NPO法人地域活性化支援センター(静岡市)が2006年に「恋人の聖地」に認定した。

(2016年12月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ