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社説・コラム

天風録 「真珠湾の折り鶴」

 その鶴は、キャラメルの包み紙で折ってある。高さ2センチにも満たない。被爆し、白血病のため12歳で逝った佐々木禎子さんが残した1羽。米ハワイ真珠湾のビジターセンターに遺族が3年前に寄贈し、12・7を伝える展示の片隅に▲あれから75年。日本の奇襲攻撃を忘れまいとする場に、なぜ折り鶴を置くのだろう。ノーモア・ヒロシマと言われると、リメンバー・パールハーバーと返す。遺恨は消えなくても、乗り越える何かが育ちつつあるのか▲原爆を落とした国の大統領が自ら折った鶴を携え、被爆地を訪れたのは5月のこと。返礼ではないとしながらも年の暮れ、日本の首相が初めて真珠湾で慰霊する。サダコの鶴のようにさりげなく受け入れられればいいが▲むろん二つの国の政治的思惑によるパフォーマンスという見方もできる。一方で大統領の母校、ハワイのプナホウ学園からは歓迎する声もある。真珠湾のセンターで鶴の折り方を教える活動を続けてきた高校生たちだ▲日本人を含め、さまざまな国から訪れる人の表情に身近に接し、わだかまりを解く可能性を感じているのかもしれない。日米のリーダーこそ小さな折り鶴の前に立ち、目を凝らしてほしい。

(2016年12月7日朝刊掲載)

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