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被爆前の広島 疑似体験 VRで360度再現 福山工高 来夏完成目指す

 福山工業高(福山市)の生徒が、原爆で失われた爆心地の街並みをバーチャルリアリティー(VR)技術で再現しようとしている。ゴーグル型の装置を着けると、再現した仮想空間が映像と音で広がり、歩くような「体験」もできる。「失われた暮らしを、誰もが実感できるようにしたい」と、爆心地の半径300メートルのエリアで来夏の完成を目指す。(高本友子)

 ゴーグル型の装置に、原爆ドーム前身の広島県産業奨励館の映像が現れる。360度の仮想空間で、元安川にはボートが浮かぶ。路面電車が走る相生橋の上、旧中島地区(現平和記念公園)へと、コントローラーで景色が変わる。空間内を「歩く」こともできる。

 計算技術研究部の3年生を中心とした約10人が、コンピューターを使い制作。機材費は部員で出し合った。今後、遊ぶ子どもや車の音、建物の看板なども加え、被爆直前を再現する。部長の2年平田翼さん(17)は「VRなら昔のことが想像しやすい。記憶の風化に歯止めをかけたい」と意気込む。

 当時付近に住んでいた人の証言や写真を参考にする。7月、旧猿楽町に住んでいた森冨茂雄さん(87)=広島市西区=に聞き取り調査をした。森冨さんが描いた街並みのスケッチ約30枚も資料にする。森冨さんは「たった1発で奪われた人と暮らしが、若い人にもよく伝わる」と期待する。

 同部は2010年から爆心地付近を再現したコンピューターグラフィックス(CG)も作っている。これまで延べ約100人の被爆者たちの証言を聞き、爆心地から半径1キロをCGで再現した。これらの資料も活用する。

 VRは来夏以降も制作を続け、半径1キロまで広げる計画。同部の長谷川勝志顧問は「資料は多くはない。当時を知る人がいれば協力してほしい」と話している。

バーチャルリアリティー(VR)技術
 コンピューターで作り出した映像や音で、現実の疑似体験ができる技術。ゴーグル型のディスプレーなどを使い、視覚、聴覚、触覚を刺激する。ゲームなどに活用されている。

(2016年12月14日朝刊掲載)

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