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社説・コラム

天風録 「不時着と着陸」

 7年前、米ニューヨークの上空約千メートル。空港を飛び立った旅客機の両エンジンが突然止まる。鳥の群れを吸い込んだからだ。このままでは乗客の命はおろか街中に墜落する―。機長は決断する▲眼下の川への着水である。巧みな操縦で橋などをよけ、滑るように川面に降りた。155人の乗員乗客は全員救出され、機の損傷も軽かった。のち「ハドソン川の奇跡」と称賛され、ことし日本でも映画が公開された。これこそ本当の不時着だろう▲沖縄の浅瀬に残骸をさらしたオスプレイはどうみても墜落だ。米軍は不時着と言い張り、揚げ句に住民が無事だったので「感謝されるべきだ」と。何たる物言いか。地元の怒りはもっともだ▲日本政府の姿勢にもあきれる。沖縄入りした防衛副大臣は、墜落と認めよと追及する名護市長に「被害を食い止めようと努力したから墜落ではない」。むろん辞書にもない定義である。米軍の受け売りとしても苦しい▲奇跡の機長は元空軍の戦闘機のパイロット。ひょっとしたら沖縄の空を飛んだこともあろうか。市街地をかすめ飛び、墜落の不安と隣り合わせの基地。見て見ぬふりしてオスプレイの飛行を再開させるのはもっての外だ。

(2016年12月17日朝刊掲載)

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