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社説・コラム

『書評』 「『全記録』ヒロシマという視座の可能性をひらく」 ひろしま女性学研究所 昨年のフォーラム報告書

 昨年末、広島市内で開かれた「被爆70年ジェンダー・フォーラムin広島」の報告書「『全記録』ヒロシマという視座の可能性をひらく」が、ひろしま女性学研究所(中区)から刊行された。

 フォーラムは、戦後70年を経て、ステレオタイプに語られがちな「ヒロシマ」を多角的に検証しようと、市民有志の実行委員会が昨年12月19、20日に開催。約220人が参加し、被爆の記憶はメディアや芸術の中でどう表現・受容されてきたかや、朝鮮半島出身の被爆者、性的マイノリティー、沖縄や福島が抱える問題に被爆地はどう向き合ってきたかなど、さまざまな切り口から議論した。

 報告書には、当日登壇した21人の発表内容をまとめたほか、参加者とのやりとりを収録している。

 急病で参加できなかったスイス・ジュネーブ大上級講師のマヤ・モリオカ・トデスキーニさんも「『原爆乙女』と『ヒロシマの母』 大衆文化における被爆者女性像」と題し、特別寄稿。映画などで女性被爆者が耐え忍ぶ存在として美化される傾向が、現実の苦しみの複雑さを理解する妨げとなっていることを指摘している。

 実行委代表で、ひろしま女性学研究所主宰の高雄きくえさんは「これまで可視化されてこなかった歴史に光を当てたフォーラムの記録は、忘却への抵抗であり、記憶への挑戦」と話している。A5判、531ページ。3240円。同研究所Tel082(211)0266。(森田裕美)

(2016年12月20日朝刊掲載)

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