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社説・コラム

社説 天皇の退位 意向踏まえ議論尽くせ

 きのう83歳の誕生日を迎えられた天皇陛下は、自らの退位について「親身に考えてくれていることに深く感謝しています」と、前日の記者会見で述べた。 8月のビデオメッセージによる退位への「お気持ち」公表を受け、政府は有識者会議を設置した。その有識者会議が年明けにも、中間まとめとなる論点整理を公表する。現天皇の一代に限って退位を可能にする特別法での対応が望ましい―との方向性だ。政府はそれを軸に法整備を目指す構えである。

 だが有識者会議や政府の方向性は果たして、陛下の意向を十分にくみ取ったといえるだろうか。また国民が納得できる内容であろうか。

 今回の陛下の会見には、退位を巡る議論について踏み込んだ発言はなかった。政治介入とならないように、との配慮があったと思われる。

 陛下は一方で、「将来を含めて譲位(退位)が可能な制度に」と、恒久制度を望む気持ちを学友に吐露してもいる。意向を踏まえ、また象徴天皇制の在り方も含めて、議論を丁寧に尽くす必要がある。

 有識者会議は11月末までに専門家16人へのヒアリングを終了した。一代限りの退位を特別法で認めることを支持したのは、5人のみ。残りの専門家は退位に賛成、反対にかかわらず、批判的であった。

 それでも有識者会議は、今月中旬には「恒久制度化は困難」との見解で一致している。

 政府も当初から恒久制度化に及び腰であった。恣意(しい)的な退位で皇位が不安定化し、強制的な退位が可能になるといった懸念を示していた。

 皇位継承について定めた皇室典範を改正するとなれば、作業の複雑化は避けられず、女性・女系天皇などに議論が及んで時間がかかる恐れもあるためだ。

 有識者会議もそういった点を考慮したとみられる。象徴天皇と政治の在り方を動揺させかねないともした。

 83歳という陛下の年齢を考えれば、議論を急がねばならないことに異論はない。だからといって、特別法で迅速に―という姿勢ならば疑問が残る。

 憲法に反するとの指摘もあることは重く受け止めなければならない。憲法に書かれている典範に退位の要件を定めるべきであり、他の法律で規定するのは違憲という考え方だ。

 民進党は、全ての天皇に当てはまるよう典範改正が望ましい、との姿勢を打ち出す。

 また、国民統合の象徴であるからには、国民の理解が得られるかどうかも考慮せねばなるまい。世論調査の結果をみると、7割前後が退位の恒久制度化を求めている。

 天皇、皇后両陛下はことしも戦没者慰霊の旅としてフィリピンへ赴いたほか、東日本大震災からの復興途上にある東北や、熊本地震の被災地を訪れ、住民たちを見舞い、激励した。

 世論調査で退位の恒久制度化を求める声が高いのも、高齢を押して務めを果たそうという意思や姿に共感を寄せ、支持していることの現れといえよう。

 象徴天皇制の在り方についても、考え直すべき時がきているのだろう。今後、どのように公務を担ってもらうのか。結論ありきでなく、国民的な議論をしっかりと尽くさねばならない。

(2016年12月24日朝刊掲載)

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