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追跡2016 中国地方の現場から 上関原発埋め立て免許延長 国の見解根拠に転換

 8月3日、局面が大きく動いた。中国電力が山口県上関町で進める上関原発建設計画。村岡嗣政知事はそれまでの方針を転換し、予定地の海を埋め立てる免許の延長許可に踏み切った。中電が延長申請した2012年10月以降、先送りしてきた可否判断。国が「原発の新増設は現時点で想定していない」とする中での決断に、波紋が広がった。

「法要件満たす」

 11年3月の福島第1原発事故を受け、予定地での準備工事が中断し5年。埋め立て免許の取り扱いは焦点となっていた。村岡知事は就任以来、判断先送りに転じた故山本繁太郎前知事の方針を踏襲。中電から7度目の補足説明の回答文書を受け取った6月には、8度目の照会もにおわせていた。

 「埋め立てた土地を実際に使う見込みがあると確認できた。法律の要件を満たしており、許可せざるを得ない」。村岡知事は県庁での会見で繰り返した。

 許可の決め手は何か―。中国新聞の情報公開請求で明らかになったのは、中電の7度目の回答。上関原発について、エネルギー政策における重要電源開発地点の指定が「引き続き有効で、解除は考えていない」とする国の見解書面を添えた。県はこの見解を、長期審査に終止符を打つ根拠とした。

 今夏、人口が3千人を割った上関町。上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表(61)は「原発の賛否を超え町づくりで協力していた。状況は変わらないのに許可を出すとは」。憤りは今も冷めない。

 推進派の上関町まちづくり連絡協議会。古泉直紀事務局長(58)は「やきもきする思いが拭えた」と振り返る。村岡知事は許可した際、発電所本体の着工時期の見通しが付くまで埋め立て工事をしないよう中電に要請。中電もこれに沿うとした。だが、ある県幹部は「(中電は)いつでも工事を再開できるフリーハンドを得た」とみる。

島根は審査続く

 一方、中電がまず目指す島根原発2号機(松江市鹿島町)の再稼働の行方も見通せない。3月、原発事故時の指揮命令拠点で、再稼働の条件となる緊急時対策本部が入る建物を敷地内に建設すると発表したが、運用開始は17年度以降になるとみられる。

 さらに、島根原発を含む沸騰水型の原発は再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査が続いており、合格した原発はまだない。同2号機の審査会合のペースは昨年より落ちている。

 今月8日、2号機中央制御室の空調換気ダクトに、腐食が原因の穴や亀裂があることが分かった。中電は「放射線管理区域外で、審査への影響はない」とするが、21日に反原発の市民団体が「今後も同様の事態が起こることが容易に想定される」と抗議するなど、反発も広がっている。(佐藤正明、井上龍太郎、秋吉正哉)

上関原発
 中国電力が山口県上関町で計画し、改良沸騰水型軽水炉1、2号機の出力は各137万3千キロワット。埋め立て海域は約14万平方メートルで、中電は公有水面埋立法に基づき2008年10月、当時の二井関成知事から免許を受けた。中電は1年後に着工したが、福島第1原発事故後に中断。免許期限切れ直前の12年10月、3年延長を県に申請した。15年5月、ことし6月にも延長を申請。村岡嗣政知事は8月3日、一括して19年7月までの延長を許可した。

(2016年12月24日朝刊掲載)

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