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社説・コラム

社説 トランプ氏「核」発言 ボタン握る自覚を持て

 どこまで本気なのだろうか。

 トランプ次期米大統領が、自身のツイッターで「核戦力を大幅に強化、拡大しなければならない」と主張した。

 具体策はなく、真意も定かではない。政権移行チームの報道担当者たちは、「核拡散の脅威を念頭に、それを防ぐ必要性を述べたものだ」「軍拡競争にはならない」などと、火消しに回っている。

 7千発もの核兵器を保有している米国の、「核のボタン」を預かる座に就く自覚は一体、どこにあるのだろう。

 次期大統領として、あまりにも軽率で無責任な発言だろう。あきれると同時に、資質に大きな不安を覚えざるを得ない。

 ロシアのプーチン大統領が、国防省の会議で「いかなるミサイル防衛(MD)システムも突破できるよう、戦略核の軍事能力を強化する必要がある」と指示した直後、ツイッターに投稿された。強気の構えを見せておこうとしたのかもしれない。

 トランプ氏は、本心をただす米テレビ局の取材に対し、何を目指すか明らかにしないまま「軍拡競争をすればいい」とも言い放ったという。

 「核兵器なき世界」を訴えてきたオバマ政権のみならず、冷戦の終結後、歴代の米政権が営々と積み上げてきた核軍縮への努力をふいにすることにもなりかねない。

 振り返れば、大統領選の最中から、テロリストに対する核攻撃を示唆。核開発をやめない北朝鮮に対抗するため、日本や韓国に核武装を促す考えさえ口にしていた。

 その後、日韓の「核武装」発言は否定に回ったが、核戦略に対する認識不足を印象付けたのは間違いない。対立候補だったヒラリー・クリントン氏からも、冷静さや自制心に欠けると指摘され、「核兵器のボタンに近づけてはならない」との批判を浴びていた。

 言うまでもなく米国とロシアは、突出した核大国である。世界に存在する約1万5千発の核弾頭のうち、9割以上を両国が保有している。

 2009年に就任したオバマ米大統領は翌年、ロシアと戦略核弾頭の配備数をそれぞれ1550発に削減する新戦略兵器削減条約(新START)に調印するなど、核軍縮への期待は高まった。その後、米ロ関係の悪化で停滞しているのが実情である。

 「力には力」で軍拡路線に舞い戻るようなことがあれば、中国など他の核保有国を刺激するのは間違いない。世界を混乱させかねず、危なっかしい言葉の応酬はやめてもらいたい。

 仮に一発でも核兵器が使われれば、一体どんなことになるか。その証しがヒロシマであり、ナガサキにほかならない。トランプ氏は何はさておいても、被爆地に立ち、その実相に触れるべきである。その上で、核政策を説明する責任がある。

 国連総会はおととい、「核兵器禁止条約」制定交渉の来年3月開始を決議した。過半数の113カ国の賛成多数で可決されたものの、米ロ両国など核兵器保有国に加え、日本など「核の傘」に頼る国々も反対。核軍縮に向けた国際社会の足並みの乱れが浮き彫りになった。

 「核兵器なき世界」は、世界への公約ともいえる。バトンを放り投げてはならない。

(2016年12月25日朝刊掲載)

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