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連載・特集

イワクニ2016 市民の安全確保体制 急務

 岩国市の米海兵隊岩国基地に来年1月から最新鋭ステルス戦闘機F35B計16機を配備する米計画について、福田良彦市長は21日、国に了承すると回答した。だが9月以降、F35Bを含む岩国基地関連の米軍機の事故が国内外で頻発。市民は基地を抱えるリスクに直面した。来年は、在日米軍再編計画による米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機59機の移転も現実味を帯びる。市民の安全確保に向けた地元自治体と国、米軍の体制づくりが急がれる。(野田華奈子)

■相次いだ事故

情報収集の在り方課題

 国は今年8月、米国外で初となるF35B配備計画を県市に伝達。福田市長はF35Bが運用されている米アリゾナ州の海兵隊ユマ基地にまで視察に赴き、受け入れをいったん容認。だが、県も容認した直後の11月8日、F35Bが米国内で10月下旬に出火事故を起こしていたとの連絡を国から受け、判断を留保した。

 9月には沖縄本島沖でAV8Bハリアー攻撃機が、11月には高知市沖でFA18ホーネット戦闘攻撃機が墜落。今月13日には沖縄県沖で垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが大破した。米軍機の安全性に対する市民の不安は一気に高まり、市議会では配備容認への慎重論も出た。国外で発生したF35Bの事故は米側から国に積極的な情報提供がなく、国が把握したのは発生から10日以上たっていた。迅速な情報収集の在り方も大きな課題として浮上した。

 福田市長は「機体の構造上の問題ではない」とする米側の初期段階の調査結果や国の説明などを踏まえ、配備計画を国への条件付きで容認。具体的には騒音対策や、すでに要望している安心安全対策、地域振興策の前進などを挙げ、県の村岡嗣政知事とともに21日に上京して国に伝えた。稲田朋美防衛相は「要望の実現へ最大限努力したい」と回答した。

 F35Bは来年1月と8月、岩国基地のホーネットとハリアーの機種更新として配備される。詳細な時期は改めて国から示される。

■進む再編工事

艦載機移転 騒音に懸念

 一方、在日米軍再編計画で「2017年ごろまで」とされる空母艦載機移転に伴い、中国四国防衛局が進める米軍施設の整備工事は最終盤を迎えている。17年度政府予算案では179億3400万円(契約ベース)が盛り込まれ、16年度当初に比べ69%減となった。

 愛宕山地区では、運動施設エリアのうち野球場が17年3月末、コミュニティーセンターが同10月末、陸上競技場が18年2月末に完成する予定。米軍家族住宅エリアは低層住宅262戸のうち、半数の131戸が17年5月末、残りの半数は同年7月末の完成を目指す。運動施設は米側に提供した後、市民と米軍が共同で使用する手続きが取られる。

 艦載機の移転時期の詳細は国から県市に伝えられていないが、在日米海軍司令部は「日米合意に基づき、必要な建物の建設が完了した時点で開始される」と説明。段階的な移転に向けて準備を進めているという。

 艦載機移転では騒音の増大が懸念される。市などの要望を受けて中国四国防衛局は米軍と調整し、8月に岩国基地で艦載機の試験飛行を実施した。EA18Gグラウラー1機が約10分間、旋回やタッチ・アンド・ゴーをしたが、複数の艦載機が頻繁に離着陸する厚木基地の通常の飛行とは異なり、実効性が問題視された。

■高まる拠点性

「日米同盟の象徴」と注目

 「日米同盟の象徴」として岩国基地の存在感がクローズアップされた1年でもあった。

 5月、オバマ米大統領は広島訪問に先立ち、岩国基地で海兵隊員たちを激励した。同基地を「日米の信頼と協力、友情の例」と表現。日米同盟について「この地域や世界の安定に欠かせない、繁栄の基礎だ」と必要性を説いた。

 在日米軍トップのジェリー・マルティネス司令官は11月、日米共同統合演習の視察で訪れた岩国基地で、ドナルド・トランプ氏が次期大統領に就任した後の日米同盟関係について「変わることはない」との見方を示した。岩国基地の重要性にも言及。「地勢上、戦略的な位置にあり、どのような作戦にも対応できる形で整備が進んでいる」と述べた。

 岩国基地の拠点性が高まる中、政府は米軍再編で基地負担が増える都道府県向け交付金の期限を16年度から3年間延長することを決め、17年度予算案には増額された20億1千万円を計上した。全額を県に交付する。

 国の予算措置は地域振興に役立ったとしても、騒音や事件事故など基地負担のリスクを直接軽減するものではない。実効性のある安全対策を早急に整えるためには、「基地との共存」を掲げる市、県が、国や米軍と意識を共有して取り組みを進めるべきだ。

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1月

 20日 米海軍厚木基地(神奈川県)から海兵隊岩国基地への空母艦載機移転      で、県は岩国市と周辺の和木、周防大島両町が受け入れを容認すれば      県も容認するとの方針を表明
 24日 岩国市長選で「基地との共存」を掲げた現職の福田良彦氏が3選。空      母艦載機移転反対を掲げた新人を退けた
 28日 米国のキャロライン・ケネディ駐日大使が岩国基地の視察で市を初訪      問
 29日 岩国基地問題議員連盟連絡協議会の総会が市役所で開かれた。空母艦      載機移転を踏まえ、安心安全対策などの実現を求めていく姿勢を確認

2月

 12日 岩国基地所属のKC130空中給油機が1月29日、沖縄県内でプロ      ペラのゴム製部品を落下させていたことが判明

3月

  2日 県は、岩国基地が地元に及ぼす経済効果を「2014年度は390億      円」との試算を示した
 23日 米海軍省のスタックリー次官補が、最新鋭ステルス戦闘機F35Bが      岩国基地に配備されるのは17年1月になるとの見通しを明らかにし      た

4月

 17日 熊本地震の被害拡大を踏まえ、政府が米海兵隊の垂直離着陸輸送機M      V22オスプレイによる輸送支援を受け入れる方針を決定。同日夕に      4機が岩国基地に到着した
 27日 柳井市に15年度に寄せられた、岩国基地の米軍機によるとみられる      騒音の苦情が96件と、前年度の7件から大幅に増えたことが分かっ      た。記録を取り始めた11年度以降で最多。岩国市でも2170件と      過去2番目の多さ

5月

  5日 岩国基地で日米親善デー。17万5千人が来場
 27日 オバマ米大統領が被爆地・広島訪問に先立ち、岩国基地で海兵隊員た      ちを激励
 30日 27日のオバマ大統領の岩国基地訪問で、福田市長は「良好な日米関      係や岩国市民に感謝している」とあいさつを受けたことを明らかにし      た

6月

  6日 広島県は、米軍機による低空飛行訓練の中止を促すよう求める要請書      を外務、防衛両省に提出。オスプレイの安全対策に関する説明も求め      た
 21日 米軍横田基地がある東京都福生市の加藤育男市長が、岩国市を訪れ福      田市長と会談
 24日 米軍属の男が逮捕された沖縄での女性暴行殺害事件を受け、市議会と      県議会はそれぞれ本会議で再発防止などを国に求める意見書案を可決
 28日 市は15年の観光客数が前年より約5%増と発表。日米親善デーで3      年ぶりに航空ショーが復活したことなどが影響したと分析

7月

 14日 柳井市の井原健太郎市長が中国四国防衛局を訪れ、岩国基地の米軍機      とみられる騒音被害が相次ぐ日積地区への騒音測定器の設置を要望
 22日 岩国基地で司令官の交代式。ロバート・ブシェー大佐に代わり、リチ      ャード・ファースト大佐が着任した

8月

 11日 空母艦載機移転計画を巡り、中国四国防衛局が岩国基地で艦載機の試      験飛行を実施
 22日 F35Bの配備計画について、国が市と県に「17年1月と8月に計      16機を配備する」との概要を伝達
 29日 米海軍の報道担当者が、海軍用の垂直離着陸輸送機CMV22オスプ      レイを日本に配備すると明らかにした。岩国基地に配備される見込み

9月

 12日 空母艦載機移転計画を巡り国土交通省が11月から、山陰沖と四国沖      の2カ所に艦載機の訓練が可能な空域を設けることが判明
 22日 岩国基地配備のAV8Bハリアーが沖縄本島沖で墜落。パイロットは      救助された
 27日 F35Bの配備計画を巡り、市議会が全員協議会で国の説明を受け      た。国側は「機種更新」として、生活への影響がほとんどないとの見      通しを強調

10月

 12日 米軍機とみられる低空飛行の目撃が多い廿日市、三次、北広島、安芸      太田の広島県内2市2町が、騒音被害の情報交換会を北広島町役場で      初開催。飛行情報の共有を申し合わせた
 24日 福田市長が米アリゾナ州の海兵隊ユマ基地を訪問し、F35Bの運用      状況を視察(現地時間)
 31日 和木町議会が全員協議会を開き、F35Bについて国側から説明を受      けた。米本正明町長は配備に一定の理解を示した

11月

  2日 F35Bの配備計画を巡り、福田市長は市議会全員協議会で「承認し      たい」と述べ、市として受け入れる考えを表明
  4日 周防大島町の椎木巧町長が、F35Bの配備計画を認める考えを示し      た
  8日 村岡嗣政知事がF35Bの配備計画を容認すると表明▽中国四国防衛      局が、米国で10月27日に飛行中のF35Bが出火する重大事故が      あったと県などに情報提供
  9日 村岡知事が、F35Bの配備を容認するとした判断について「留保す      る」と表明
 10日 村岡知事が防衛省に稲田朋美防衛相を訪ね、F35Bの出火事故の原      因究明と再発防止を要請
 12日 広島市中区の路上で男性の顔を殴ったとして、広島中央署が岩国基地      所属の兵長を暴行容疑で現行犯逮捕
 20日 岩国基地の機能強化に反対する4団体でつくる実行委員会が、F35      Bの配備反対を訴える抗議集会を市役所前で開催
 29日 F35Bの出火事故について、岸信夫外務副大臣と宮沢博行防衛政務      官が、県と市に原因と対策を説明。「安全性に問題はない」とする政      府の認識を強調した
 30日 F35Bの出火事故について、中国四国防衛局の菅原隆拓局長が、周      防大島町と和木町に原因と再発防止策を説明▽岩国基地所属の兵長に      よる暴行事件を巡り、広島区検が兵長を傷害罪で略式起訴。広島簡裁      は罰金30万円の略式命令を出した


12月

  7日 岩国基地所属のFA18ホーネット戦闘攻撃機が、高知市沖の太平洋      上に墜落した。パイロットは死亡
 13日 米軍普天間飛行場(沖縄県)所属のMV22オスプレイが沖縄県沖の      海上に不時着し、大破
 16日 F35Bの出火事故を巡り、国が対策などを説明する岩国市議会全員      協議会が市役所であった。国側は「安全性に問題はない」と強調
 19日 F35Bの出火事故を巡り、岩国基地のファースト司令官が市役所に      福田市長たちを訪ね、事故状況と対応について説明
 20日 F35Bの配備計画について、福田市長が「条件付きで了承する」と      表明。実効性のある安心安全対策や地域振興策を条件に挙げる
 21日 村岡知事と福田市長が防衛省で稲田防衛相と会談。F35Bの岩国基      地への配備容認を伝えた
 22日 政府が17年度予算案を閣議決定。在日米軍再編で基地負担が増える      都道府県向けの交付金の期限を3年間延ばし、17年度は県に20億      1千万円を計上

(2016年12月28日朝刊掲載)

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