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社説・コラム

社説 福島事故と負担 国民へのつけ増やすな

 東京電力福島第1原発事故で避難生活を続ける福島県民はなお8万人を超す。仮設住宅などでの年越しはもう6度目だ。

 被災者の苦労や痛みを思うと胸がふさがれる。私たちも寄り添い続けたい。被災地復興と暮らしの再建には長い歳月がかかり、物心両面の支援も要る。

 ここにきて不可解な話が出てきた。賠償や除染、中間貯蔵施設の整備などの事故対応費用をどう賄うか。経済産業省の有識者会議が今月まとめた中間提言に首をかしげざるを得ない。

 総額は2013年にはじいた11兆円のほぼ倍、21兆5千億円に膨らんだ。前の見積もりがいかにずさんだったか。その中で賠償費は5兆4千億円から7兆9千億円に増えた。既に原発を持たない沖縄を除く全国の電気料金に上乗せされているが、国民負担は一層重くなる。今回から、新規参入した電力会社(新電力)の利用者にも請求する。

 経産省の言い分はこうだ。本来、原発事故に備えて大手電力会社が積み立てておくべきだったが制度の不備で取り損ねていた、と。新電力の利用者からも徴収するのは過去に原発の恩恵を受けてきたはずだと言うが、こじつけにしか思えない。

 ちょっと待ってほしい。備えを怠ったのは大手電力の責任であり、過去にさかのぼって利用者に押しつけるのは筋違いだ。まして新電力にまで負担を求めるのは、料金の安さだけでなく原発を避けて供給元を選んだ人々の意に反する。新電力の経営に影響するようなら電力自由化の流れにも逆行していよう。

 消費者の負担額も果たして適切なのだろうか。東電社員の給与は上がりつつある。本質的にいえば救済すべきは被災者であって東電ではないはずだ。

 有識者会議自体も問題があろう。財界人や大学教授ら委員10人は経産省が選び、秘密会合も持った。一部の委員から国民負担に異論が出たが、議論は3カ月で打ち切られた。経産省は電気料金への上乗せを省令改正などで押し切る構えだ。国会さえ通さずつけ回しをするのは納得いかない。少なくとも慎重かつ公平な議論であらねばならず、あらためて第三者機関を設置して検証し直すべきだ。

 今回の費用試算にしても範囲内に収まる保証はない。東電に捻出させる廃炉費用は従来想定の4倍の8兆円となったが、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の場所さえ詳しく分かっていない。一部税金を投入する形で4兆円まで膨らんだ除染も、被災者が安心して古里に帰還する環境を整えねばならない。

 費用負担の在り方とともに、有識者会議の提言でもう一つ見過ごせないのは東電柏崎刈羽原発の再稼働に踏み込んでいることだ。経営安定化が費用負担につながるとの考えらしいが、10月の新潟県知事選で示された民意をどう考えるのか。

 原発依存度を「可能な限り低減させる」とした安倍政権の約束は揺らぐ一方である。

 おととい夜、茨城県北部を震源とする震度6弱の地震が起きた。気象庁によると東日本大震災の余震とみられる。私たちは地震列島に暮らす。原発はひとたび事故を起こせば20兆円でも収まらない被害をもたらし、巨額の国民負担を強いる。重い教訓を生かした真摯(しんし)な議論を来年こそ求めたい。

(2016年12月30日朝刊掲載)

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