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連載・特集

2016年「読者文芸」選を振り返って

歌壇 道浦母都子

個の精神研ぎ澄ます

 今年も多くの投稿があった。短歌に心寄せる人々が、こんなにたくさん…と、驚き、また感謝している。

 今年は、オバマ米大統領が来広し、記念すべき年となった。

 「傘寄せて原爆ドーム見るふたりひとりが話しひとりが頷く 大多和義」

 「こんなにも美しい街か広島は多くの犠牲に思いを馳せる 湊洋子」

 今にも崩れ落ちそうな原爆ドームと美しく再興された広島の街。オバマ氏の目には、どのように映っただろうか。広島の悲をうたい続ける作者が多くいるが、単に回想にせず、今と結びつけて、うたってほしい。貴重な証言ではあるが、個々の思いを託しての現在を生きる作品とする工夫が必要とされる。今を生きる自分にとっての広島を作品化してほしいと願う。

 先にあげた2首は、その点を巧みに汲(く)み上げているのが、特徴的である。

 「鶏卵の東西南北おもふとき黄身はしずかな地球のマグマ 山田典彦」

 達者で、歌壇の常連ともいえる作者。この作者の良さは、誰も見ていないところを見、そこから、空想の翼を広げている。つまり、自分の世界を持っているという点である。「生活の中から詩を拾う」、師・近藤芳美の言葉である。詩はどこにでもあるが、自分の目を研ぎ澄まし、常識から外れたところから拾い上げなくてはならない。歌人は、社会の通念や他人の目を意識せず、個の精神で生き、うたに精進していただきたいと願う。(歌人=大阪府吹田市)

詩壇 野木京子

オバマ氏訪問 心刻む

 5月にオバマ米大統領が広島を訪問し、原爆慰霊碑に献花した。亘幸男さんの「眠れない母」は、被爆者である亡くなった母に語りかけた詩で、6年前からの連作だ。大統領訪問を受け、今年は「眠れない母 最終章」とされたが、被爆者、遺族の苦しみ悲しみは終わらない。これからの展開にも期待したい。

 世界のすみずみまで核兵器の射程内にある私たちの現実は変わらない。その視点から、末国正志さんの「真下に立って」は、核廃絶への祈りとして強烈な印象を残した。

 井上雅博さん「燃えつきぬ」の、肉親の死と自らの命を見つめる目の冷徹さにも心打たれた。伊藤陽康さん「『大きな力』に向き合って」は、熊本地震をテーマに、現実世界を鋭く問うた。

 森永真由美さんは、戦争をテーマにした重い作品もあったが、「あれ・それ・これ夫婦」の軽妙さが面白く、過疎化の現実も垣間見え、味わい深かった。山手育男さんの「街路樹君へ」は、人間以外の存在への優しいまなざしに、ほっと心がなごまされた。

 詩は人生最良の友人だと、私は思う。この友人は裏切らず、終生そばにいてくれる。たくさんの投稿作を読みながらその思いを新たにした。皆さんにはこの友人との対話をぜひ続けていただきたい。詩は、答えではなく、対話だ。

 最後になったが、今年の明るいニュースは、カープのリーグ優勝だった。来年を期待する詩も、これから多く投稿されるだろう。楽しみにしたい。(詩人=横浜市)

柳壇 弘兼秀子

共感呼んだカープ愛

 川柳は、私たちが普段話したり書いたりしている口語体で、人間の喜怒哀楽を十七音字のリズムで表現する文芸です。中八や下六だとリズムに乗れないので何度も読んで推敲(すいこう)してみてください。駄じゃれや語呂合わせにならないように、人や物事をけなしたり、中傷する句にならないようにしたり注意する点はありますが、社会を人間を見つめ自由に作句してみましょう。

 今年もいろいろな出来事があり、そのことをどう思ったか、感じたかという実感句が多く寄せられ、心に響きました。

 オバマ米大統領の広島訪問もあり、平和を願う句には胸を打たれました。「折鶴にオバマも秘めた胸の内 室晃二」「千ばづるへいわをまもるぼくのだい 花田恭理(小2)」。心の奥のどうしようもない想(おも)いも五七五は受け止めてくれます。「辛抱の限界を知る小さい胃 住田照水」「反論はせぬが切ない息をつき 津山ひさ子」「昨年の痛みを思い出す桜 熊谷純」

 生活の一こまを切り取るなど身の回りには題材があふれています。「同病と知る待合の長い椅子 岡田郁枝」「旅の宿断ってかく大いびき 林勝彦」。25年ぶりに優勝したカープへの熱い想いは、多くの人の共感を呼ぶものでした。「我がカープファンと一緒にVの旅 増田孝允」「男気も忍者も神も居るカープ 仲野耐子」「待ち侘(わ)びた亡夫にカープのV知らせ 室紅雲」

 来年もたくさんの秀句を期待しています。(全日本川柳協会常任幹事=大竹市)

俳壇

藤丹青

自然の声に耳傾けて

 俳句は自然を詠むだけでなく、自然に従う心が大切。虚子はそれを「花鳥諷詠(ふうえい)」と表した。この視点でことし1年を振り返りたい。

 春の句では、自然に逆らわずあるがままを発見した「林道は風の通ひ路竹の秋 武下文比古」、夏の句は心を遊ばせ自然より授かった「吊橋の闇の底まで河鹿笛 宮川尚士」が印象深い。

 秋の句としては、自然を素直に感じて生まれた「秋風に触れたくて乗る観覧車 浜崎美代子」、冬の句では、自由にのびのびと表現した「マネキンの八頭身や毛皮着る 沖元弘孝」などの句だろう。「花鳥諷詠」とは、自然にほれぼれと接すること。自然から語る声が聞こえ、17音の言葉がおのずと生まれてくるのである。(広島ホトトギス会代表)

和田照海

思い深く平明な表現

 ことしの選で特に心に響いた句は「名月や小督(こごう)ひとふし口遊む 高原昭夫」。謡曲の「小督」は中秋の名月がふさわしく、「ひとふし」の惜辞が適切。

 「初つばめ来る空の色海の色 山口勝子」は、「つばめ来る」が春の訪れの象徴的な表現。空と海の呼応がよかった。「投入といふ生け方や水中花 斎藤金二」は流儀にこだわらないという、俳味ある詠み方が印象的だ。

 「しばらくは質問攻めにあふ帰省 廣本貢一」は、待ちわびた孫の帰省に家族が矢継ぎ早の質問。客観的でリアルな視点だった。

 俳句では、思いは深く、表現は平明にといわれる。句に多くを詰め込みすぎないこと。定型の中で季語の効用を大切にし、新鮮な発想の句を期待したい。(広島県現代俳句協会最高顧問)

木村里風子

現実訴える強さ実感

 俳句で現実を訴える強さを実感した。ことし、印象に残った句は「炎天の誰も拾はぬ一円玉 二階堂頴二(えいじ)」だ。神社仏閣では、地蔵の前に1円玉が供えてあり、これは後に浄財となる。しかし、炎天の1円玉は見ても拾われないのが現実だ。見過ごしやすいが、よく句にした。「焼香す仏間に大き島西瓜 村﨑セツ子」も現実をよく表している。

 ことし、米国の大統領が広島を初めて訪れたのも現実で、このテーマを扱った作品が多く寄せられた。ただ、一過性のため俳句にするのは難しい。どの材料が俳句になるかをよく考えて。現実の感動が報告や説明で終わらないように。句材をとらえた時の感情を素直に表現し、技巧に頼りすぎないことである。(俳人協会広島県支部長)

(2016年12月30日朝刊掲載)

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