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社説・コラム

社説 中国地方この1年 縮小社会に抗する力を

 この1年を振り返るなら、中国地方では何といっても広島東洋カープの優勝だろう。実に25年ぶりのリーグ制覇だった。逆転に次ぐ逆転で快進撃を続け、「神ってる」は新語・流行語大賞の年間大賞に選ばれた。今思い出しても幸せな気分になる。

 ファンの声援に、見事に応えてくれた選手の皆さんに改めて感謝を伝えたい。

 広島の街があんなに沸いたのは、いつ以来だろう。民間シンクタンクの試算では、優勝セールなどによる広島県内の経済効果は約340億円に上る。アベノミクスの恩恵が地方で実感しにくい中、私たちにとっては降って湧いたような「カープノミクス」と言っていい。

 プロ球団の選手枠は70人と、小さな集落や自治会の規模に近い。親会社もない「市民球団」のカープが、どうやって復活したのか。検証すれば、地域再生へのヒントも見えてこよう。

 中国山地の実情から「過疎」の言葉が生まれて以来、ことしで50年。それは、東京一極集中の半世紀でもあった。中国地方は今なお厳しい状況にある。

 政府も地方自治体も手をこまねいている間に、三次市と江津市を結ぶ赤字ローカル線、JR三江線の廃止が9月、正式に決まった。その2カ月前の参院選では、人口減の島根、鳥取両県に合区選挙区が導入された。地域社会を限りなく縮小させていく圧力に、どう立ち向かえばいいのだろうか。

 いま一度、人材を育てることに情熱を傾けたい。

 カープも生え抜き選手をじっくり鍛え、そつのない赤ヘル野球を継承した。若ゴイたちが汗を流す2軍球場は岩国市由宇町にある。県境をまたいだ人材育成プロジェクトともいえる。再びの優勝まで四半世紀もの時を要したものの、金に飽かせての補強が常の球団とは対極を成す、愚直な姿勢こそが人々の琴線に触れた。

 心のつながりは、思いも寄らない化学反応を引き起こす。体現した一人が黒田博樹投手である。2年前、大リーグが提示した高額年俸を蹴り、カープに復帰した。「広島という小さな町に待ってくれる人がいる」がその理由だった。彼をして、そう言わせる磁力がこの地にあるなら、さらに磨きをかけ、将来への道しるべとしたい。

 長年の悲願がかなったといえば、オバマ米大統領の広島訪問もそうだろう。原爆を落とした国の現職大統領が初めて、被爆地に足跡を刻んだ。

 「核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」。5月、平和記念公園での演説は、被爆地や核問題に対する世の関心を国内外で高めるきっかけにはなった。

 しかし歴史的訪問の評価は、定まったわけではない。「核兵器なき世界」を訴えてきたオバマ氏が、具体的な核軍縮に踏み込まなかったのは何とも残念でならない。

 年明けには、トランプ氏が次期大統領の座に就く。大統領選で日韓の核武装を容認するような発言をした上、先日は米国の核戦力を強化、拡大させるとインターネットに投稿もした。再びロシアとの軍拡競争に走る恐れもある。それを食い止める先頭に立つべきは被爆地だろう。私たちが再び試されているといってもいい。

(2016年12月31日朝刊掲載)

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