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連載・特集

ヒロシマの記録2016 1~6月 オバマ氏 歴史的な訪問

 ことしは、ヒロシマにとって歴史に残る年だ。国連で来春から「核兵器禁止条約」の交渉が始まることが決まった。被爆71年にして初めて米国の現職大統領の訪問をみた。にもかかわらず、すっきりしないまま、年を越そうとしている。国際社会で「核兵器なき世界」への推進力が増すほど、それを阻む動きも目立ったからだ。

 日本被団協が旗を振り、核兵器を禁止し、廃絶する条約の制定を各国に求める国際署名運動が4月に始まった。被爆者は平均80・86歳(3月末時点)。その訴えは、核兵器の非人道性を理由に法規制を迫る、オーストリアなど非核兵器保有国や非政府組織(NGO)の主張を下支えしてきた。禁止条約の実現へ、老いる体を奮い立たせ、師走の寒空の下でも街頭に立った。

 10月の国連総会第1委員会(軍縮)では、禁止条約の交渉開始を定めた決議案に加盟国のほぼ3分の2の123カ国が賛成。廃絶への一歩を踏み出しはした。ただ、米ロなどの核保有国と、米国の核抑止力にすがる同盟国を中心に38カ国が、段階的な軍縮などを主張して反対。法規制を巡って続く対立は深まるばかりだ。被爆国も反対票を投じた。

 日本を含む北東アジアの安全保障環境は厳しい。1、9月に北朝鮮が核実験を実施。ミサイル開発とあいまって、脅威の増大を唱える声は強くなっている。年の瀬には、ロシアのプーチン大統領が「核戦力の強化」を言い、ならばとばかりに、米国のトランプ次期大統領もツイッターでやり返す。2人のやりとりに核の悲惨さへの理解は感じられない。

 だからこそ被爆国には、核に頼るのではなく、ヒロシマ、ナガサキの思いに沿って核の脅威を振り払う言動が強く求められている。

 広島市中区の平和記念公園にある原爆資料館本館の敷地で、市が昨秋から進めてきた発掘調査では、被爆時の地表や、焼け焦げたしゃもじなど生活用品が相次ぎ見つかった。5月に公園を訪れたオバマ米大統領が踏んだ場所にも、同じようにたった1発の原爆で消された町が広がっていたと、よく分かる。

 オバマ氏の訪問後も核軍縮の進展こそなかったが、核の惨禍を刻む被爆地と、その訴えに国内外の関心を向けさせる機会になった。ヒロシマの発信力を生かし、2017年こそ、核兵器のない平和な世界への夜明けにしたい。(岡田浩平)

1月

 6日 北朝鮮が4回目の核実験実施を発表
 7日 米シンクタンクの軍備管理協会が、2015年の「アームズ・コントロ     ール・パーソン・オブ・ザ・イヤー」を広島市南区出身の被爆者サーロ     ー節子さん=カナダ=と広島、長崎の被爆者に贈ると発表
14日 広島と長崎で被爆した韓国人の被爆者79人が、韓国政府が日本に賠償     請求権の存在を確認しようとしないのが違法だとして損害賠償を求めた     訴訟の控訴審判決で、ソウル高裁が一審に続き原告の訴えを認めず、控     訴を棄却▽フランスのティエリー・ダナ駐日大使が広島市で原爆慰霊碑     に献花
16日 イランのザリフ外相と欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級     代表がウィーンで共同声明を発表し、核兵器開発疑惑に伴って欧米と国     連がイランに科してきた制裁の解除を宣言
17日 広島市の本通り商店街の被爆建物、広島アンデルセンが現建物での通常     営業を終える。全館を建て替え、被爆した外壁は保存する方針
22日 政府が、イランによる核開発の制限履行を受け、対イラン制裁を解除
25日 在外被爆者への被爆者援護法に基づく医療費の全額支給を求めた広島訴     訟が広島高裁で終結
27日 広島県被団協(坪井直理事長)が、5月に結成60年を迎えるのを前に     広島市で記念式典を開き、核兵器廃絶へ運動継続を誓う
28日 広島市が16年度、原爆資料館で収蔵する被爆関連資料の劣化度調査に     乗り出すと判明

2月

 1日 広島市が原爆ドームの地面から被爆前の広島県産業奨励館の床面とみら     れるコンクリート製の遺構が見つかったと発表▽広島市が2016年度     に拡充する民間の被爆建物保存工事の補助制度概要が判明。鉄筋、れん     が造りの非木造建物への補助金額を最大8千万円とし、現行より5千万     円引き上げ
 2日 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の入館者数が開館13年6カ月で累     計300万人を突破
 7日 北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイルを発射。国連安全保障理事会が非     公開の緊急会合を開き、過去の安保理決議の深刻な違反に当たるとして     「強く非難する」と報道声明
13日 全国被爆二世団体連絡協議会が国に被爆2世への援護策を迫るため集団     訴訟に踏み切ると決定
14日 韓国の聯合ニュースとKBSが、「在韓米軍の戦術核再配備」と「韓国     の核兵器独自開発」を支持する人の合計が52・5%で、核保有反対の     41・1%を上回ったとする合同の世論調査結果を伝える
17日 広島大原爆放射線医科学研究所と長崎大原爆後障害医療研究所、福島県     立医科大ふくしま国際医療科学センターが、文部科学省の「放射線災     害・医科学研究拠点」に認定され、設置・運営などに関する協定を締結
22日 「被爆体験者」161人が長崎県と長崎市に被爆者健康手帳の交付を求     めた訴訟の判決で、長崎地裁が、被曝(ひばく)線量が高いと推定され     た地区の10人への手帳交付を命じる。原告弁護団などによると、被爆     体験者を被爆者と認めた判決は初めて▽核軍縮の進展を目指す国連作業     部会の初会合がジュネーブの国連欧州本部で開幕▽広島市教委が、15     年11月に市立学校でした意識調査で、米国が広島に原爆を投下した日     時を正確に答えた小学4~6年生が75・3%だったと明かす。199     5年の調査開始以来最高
23日 広島市は、カラスによる投石被害が相次いでいるとして、タカの置物2     体を原爆資料館と広島国際会議場の屋上に設置。平和記念公園の本格的     な防鳥対策は初めて
26日 関西電力が、高浜原発4号機(福井県高浜町)を再稼働▽米国によるビ     キニ環礁での水爆実験時に周辺海域で被曝し、後にがんなどを発症した     として、高知県内の元船員やその遺族ら10人が事実上の「労災認定」     を求めて船員保険の適用を全国健康保険協会に申請
28日 広島市で2日間開かれた核戦争防止国際医師会議(IPPNW)北アジ     ア地域会議が「広島宣言」を採択。核兵器廃絶へ、医療者が非人道性の     研究や発信に携わる重要性を強調する▽マーシャル諸島で繰り返された     核実験により被曝した可能性がある各地の元船員らを支援しようと、     「全国ビキニ被災船員救済検討チーム」が発足

3月

 1日 第五福竜丸が米国の水爆実験で被曝(ひばく)して62年のビキニデ     ー。静岡市などで集会▽国立広島原爆死没者追悼平和祈念館が、厚生労     働省の2015年度の被爆者実態調査に合わせ、被爆体験記が全国から     1万103件寄せられたと発表。17年7月に公開へ
 2日 国連安全保障理事会が、北朝鮮による4度目の核実験と事実上の長距離     弾道ミサイル発射を非難し、制裁を大幅に強化する決議案を全会一致で     採択。北朝鮮への航空機・ロケット燃料の原則輸出禁止と北朝鮮産鉱物     資源の一部輸入禁止が柱
 7日 広島市が、原爆資料館本館敷地の発掘調査で出土した被爆当時の地表部     分の保存・展示へ、切り取り作業を開始
 9日 米原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」の関連工場があったミズ     ーリ州セントルイスで地域住民に健康不安が広がり、州や連邦政府が本     格調査を始めたと報じられる▽関西電力高浜原発3、4号機(福井県高     浜町)の運転禁止を滋賀県の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁が     「過酷事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」として運転     を差し止める決定をする
11日 長崎市議会が本会議で、平和祈念式典で「平和への誓い」を読み上げる     被爆者代表を選ぶため、審査会を設ける条例案を全会一致で可決▽広     島、長崎両県の被爆者たち67人でつくる原告団が、東日本大震災発生     5年に合わせ、四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)1~3号機の運転差     し止めを求める訴訟を広島地裁に起こす
17日 ビキニ水爆実験で被曝した第五福竜丸の元漁労長、見崎吉男氏が90歳     で死去
18日 横畠裕介内閣法制局長官が参院予算委員会で、核兵器の使用が憲法に違     反するかどうかを問われ「武器の使用はわが国を防衛するための必要最     小限度のものに限られるが、憲法上あらゆる種類の核兵器の使用がおよ     そ禁止されているとは考えていない」との見解を表明
20日 広島市での「青少年外相会合広島」で、7カ国の中高生24人が「広島     宣言」を発表し、「国際的に合意した期限」までの核兵器廃絶を各国に     求める
26日 東京都国立市が、被爆の記憶を次代に語り継ぐ人材として育成した「原     爆体験伝承者」の1期生19人を任命▽米紙ニューヨーク・タイムズ電     子版が、大統領選の共和党指名争いをしていた実業家トランプ氏がイン     タビューで、日本と韓国の核保有を容認することもあり得るとの考えを     示したと報じる。在日、在韓米軍の撤収や日米安全保障条約再検討の可     能性にも言及
30日 広島県が4回目の「ひろしまレポート」を発表。核軍縮分野は、関連す     る国連総会決議案への反対や棄権などを理由に、日本を含む主に非核兵     器保有国の14カ国で前回より評価が下がる

4月

 1日 広島市が原爆資料館の入館料を値上げし、大人は50円から200円に     ▽米ワシントンでの核安全保障サミットに50カ国以上の首脳らが参     加。核物質や核施設の防護・保安を国家の根本的な責任とし、核テロ阻     止の取り組みを「永続的な優先課題」と位置付けるコミュニケを採択▽     核安全保障に関して日米両政府が共同声明を発表。核物質防護のノウハ     ウなどを共有するための枠組み交渉を開始するほか、京都大の研究用原     子炉から全ての高濃縮ウラン燃料を撤去し、米国が回収する
 2日 広島市の本川国民学校で被爆し、児童で唯一助かった居森清子さんが8     2歳で死去
 9日 ケリー米国務長官が中国新聞の書面インタビューに応じ、「核軍縮の追     求へ、現実的で実践的な手法を採用する」と強調
10日 広島市で主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合が始ま     る。被爆地での開催は初めてで、核保有国の米英仏を含む7カ国と欧州     連合(EU)の外相が出席
11日 広島市での外相会合に出席した外相がそろって平和記念公園を訪れ、原     爆慰霊碑に献花。米英仏の現職外相の公園訪問は初めて。原爆資料館を     見学し、原爆ドームへも足を運ぶ▽外相会合議長の岸田文雄外相が「核     兵器なき世界」への機運醸成を目指す特別文書「広島宣言」を発表。日     本政府が訴えてきた核兵器の「非人道性」は核保有国の反対で明記せず
12日 ケリー米国務長官がロサンゼルスで、財界人らを前に広島市の平和記念     公園を訪れた感想を述べ、「大変心を動かされた。皆さんも機会があれ     ば訪れるべきだ」と呼び掛け
15日 安芸高田市高宮町に住む被爆者たちが高宮原爆被爆者の会をつくる。会     員の高齢化で3月末に解散した高宮町原爆被爆者友の会に代わる新組織     で、元会員41人で再出発
20日 2015年度の原爆資料館の入館者数は149万5065人で1955     年度の開館以来5番目に。外国人は44・6%増の33万8891人で     過去最多
23日 岸田外相が北海道での講演で、ケリー米国務長官の平和記念公園訪問に     関し、米側に原爆投下の謝罪を求めない考えを事前に伝えていたと明か     す
25日 原爆症認定訴訟で国が福岡高裁判決を受け入れ、13年以降の新基準適     用後、「積極認定」対象外のバセドー病などを原爆症と認定した判決が     初めて確定
26日 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故から30年。ロシアのプーチン大統領     が声明を出し、事故対応に投入され、被曝(ひばく)して殉職した消防     士や兵士、専門家らの「前例のない勇気や自己犠牲」をたたえ「真の英     雄」と呼んで敬意を示す▽広島・長崎の被爆70年間に刊行された「原     爆手記」が5895冊に上ることを調べた研究者らが書誌データを検索     できるサイト「ヒロシマ通信」を開設
27日 日本被団協が、核兵器を禁止し廃絶する条約の締結を求め、国際署名運     動を始める

5月

 2日 核軍縮の進展を目指す国連作業部会の第2回会合がスイス・ジュネーブ     の国連欧州本部で始まる。出席した広島市の松井一実市長が広島、長崎     を訪れて被爆者の願いを知ってほしいと呼び掛け。13日までの会期     中、広島と長崎の被爆者2人も「核兵器を禁止し、廃絶する条約を締結     するよう全ての国に求める」などと訴える
 6日 北朝鮮・平壌で、36年ぶりの朝鮮労働党大会開会。金正恩(キムジョ     ンウン)第1書記が開会演説で、核・ミサイル開発を「実績」として全     面的に打ち出す
10日 オバマ米大統領が主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせて27     日に安倍晋三首相と共に広島を訪問すると、日米両政府が発表
12日 韓国の被爆者を日本に招き、無償で治療してきた在韓被爆者渡日治療広     島委員会が活動を終了すると発表。2015年までの31年間で延べ5     72人を受け入れ
19日 広島や長崎で被爆した韓国人への支援などを定めた被爆者支援法案が韓     国国会で可決、成立
22日 伊勢志摩サミットを前に、三重県伊勢市観光文化会館で「ヒロシマ・ナ     ガサキ原爆展」開幕
25日 参院本会議で、日本の国連加盟60年を踏まえ、国際平和への貢献を誓     うとともに、政府に対して核兵器の廃絶などに努力するよう求める決議     案を全会一致で採択▽安倍首相が志摩市でオバマ大統領と会談し、初の     広島訪問を歓迎。両首脳は「核兵器なき世界」の実現と核軍縮に向けた     連携を確認する
26日 伊勢志摩サミット開幕▽日本非核宣言自治体協議会が長野県松本市で総     会を開き、オバマ大統領の広島訪問を「『核兵器のない世界』への大き     な一歩」と決議
27日 オバマ大統領が現職の米大統領として初めて広島を訪問。広島市の平和     記念公園で原爆慰霊碑に献花し、「核兵器を保有する国々は、核兵器の     ない世界を追求する勇気を持たねばならない」と演説する。会場に招か     れた被爆者10人のうち、日本被団協の坪井直代表委員と、歴史研究家     の森重昭氏がそれぞれ大統領と言葉を交わす▽オバマ大統領が広島訪問     に先立ち米海兵隊岩国基地(岩国市)で海兵隊員たちを激励し、日米同     盟を「この地域や世界の安定に欠かせない、繁栄の基礎だ」▽広島県被     団協が結成60年
29日 共同通信社が28日から実施した全国電話世論調査で、オバマ大統領の     広島訪問について「よかった」との回答が98・0%に達す。「謝罪す     るべきだった」は18・3%、「謝罪する必要はなかった」は74・     7%

6月

 1日 ビキニ環礁で「第五福竜丸」が被曝(ひばく)した水爆実験を巡り、厚     生労働省の研究班が、周辺で操業していた他船の乗組員について「放射     線による健康影響が表れる程度の被曝があったことを示す結果は確認で     きなかった」との報告書をまとめたと判明
 3日 2015年に広島市を訪れた観光客が1199万7千人で、5年連続で     過去最多を更新したと市発表。外国人は1・5倍増で初めて100万人     超す
 6日 米核安全保障局(NNSA)が、日本から米国に返還された研究用プル     トニウムと高濃縮ウランがサウスカロライナ州の核施設などに到着した     と発表
 9日 オバマ米大統領が広島市を訪れた際に市へ贈った折り鶴4羽と芳名録に     記したメッセージの公開が原爆資料館で始まる
13日 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が1月時     点の核弾頭総数が世界で1万5400個となり、15年から450個減     ったとの推計を発表
14日 米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)が、北朝鮮が過     去1年半の間に核兵器を4~6個増やし、現在の保有数が13~21個     に上ると推計した報告書を発表
16日 日本被団協が定期総会で、米政府に核兵器廃絶へ向けた行動を強く求め     る決議を採択▽オバマ大統領の広島訪問を受け、広島、長崎両市議会が     各本会議で、両議会が協力し核兵器廃絶と世界恒久平和の実現へ全力を     尽くすと決議
23日 バイデン米副大統領が中国の習近平国家主席に対して「日本が明日にで     も核を保有したらどうするのか。彼らは一夜で核を開発する能力があ     る」と発言していたと判明
29日 東京都内に住む78~84歳の被爆者5人と、13年に死亡した男性の     妻が新基準でも原爆症認定の申請を却下した国の処分を不服として起こ     した訴訟の判決で、東京地裁が認定基準を柔軟に解釈し、全員を原爆症     と認めて処分を取り消す▽尾道市因島の被爆者でつくる「因島地区原爆     被害者友の会」が解散。府中市の「府中市原爆被害者の会」が7月の活     動を最後に解散すると決めていたことも分かる

(2016年12月31日朝刊掲載)

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