×

社説・コラム

天風録 「平和公園の光景」

 いつから始まった光景なのか。元日、平和記念公園の原爆慰霊碑の前に人々が並んで順に手を合わせ、さい銭のように箱にコインを投じていく。外国人の姿も目立った。初詣ならぬ核廃絶への新年の誓いなら心強い▲人波から「オバマ」という言葉も聞こえた。ただ大統領訪問の熱気はとうに冬のように冷めてきた。真逆を行きそうなトランプ氏の動向、国連での核兵器禁止条約の交渉の行方。被爆地はことし正念場を迎えるだろう▲公園の一角、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の新年からの企画展で、故北山二葉さんの手記を映像化していた。原爆で夫を失い、顔や手に無残なケロイドを残しながら3人の子のために身を粉にした中国新聞社員である▲何度も絶望視されたが、この子たちを孤児にできるものかと命を取り留める。被爆5年後に広島市に寄せた手記は胸を打つ。「尊い20万の命が決して無駄ではなかったことが世界中に示されるように」の言葉とともに▲米占領下で朝鮮戦争が始まった情勢ゆえか、その末尾は当時、手記集から削られた。今こそ切なる願いを成就したい。核に限らない。年明け早々、残酷なテロに身を縮める世界に平和あれ、幸あれ。

(2017年1月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ