社説・コラム

『この人』 アニメ映画「この世界の片隅に」の監督 片渕須直さん

戦争経験者の評価実感

 戦中、戦後の呉、広島両市を舞台につくったアニメ映画「この世界の片隅に」がヒットしている。「多くの方が映画館に足を運んでくれた。戦争や原爆を扱う映画として、新しい形を築けた」。63で始まった公開映画館数は増え続け、観客動員は62万人を突破した。

 原作となった漫画は、広島市西区出身の漫画家こうの史代さんが手掛けた。広島市から呉市に嫁いだ主人公すずが、真っすぐに生きる姿を描いた。「穏やかで優しく、大人になることに無自覚だったすずが急にお嫁に行くことになり、戦争によって大切なものを失う。女の子から女性へと成長するすずに会いたいと、何度も映画を見てくれるファンもいる」

 町並みや当時の天気、気温まで調べ尽くし、映像に盛り込んだ。「いま生きている世界が、映画と地続きの世界だと実感してほしい」。客席は戦争を経験した世代の姿も目立つ。呉市内の映画館には「呉空襲で私を守ってくれた母に感謝」「すずさんと同年代。心が動きました」などのメッセージが寄せられた。「当事者に受け入れてもらったことが何より誇らしい」と喜ぶ。

 日本大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品に脚本家として参加。「魔女の宅急便」では演出を補佐した。2009年の「マイマイ新子と千年の魔法」で高い評価を得た。3作目の長編映画となる「この世界の―」は、6年かけて完成させた。

 映画は評価を得たが、これで終わりではない。「何かが始まった気がする。自分と呉、広島との関係も続いていく」。大阪府枚方市出身。(小笠原芳)

(2017年1月6日朝刊掲載)
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