社説・コラム

社説 駐韓大使の一時帰国 合意ほごにせぬ道探れ

 日本政府が韓国から、駐韓大使と釜山総領事を一時帰国させた。釜山市の日本総領事館前に昨年末、従軍慰安婦の受難を象徴する少女像が据え付けられたことへの対抗措置である。

 少女像は韓国の市民団体が置いたもので、地元自治体はいったん撤去したものの、抗議殺到で一転して、設置を黙認。韓国政府も追認してしまった。

 話が違うではないか。

 慰安婦問題について2015年末の日韓合意では、日本側が軍の関与と政府の責任を認め、元慰安婦支援の財団に10億円を拠出した。一方で、外国公館の尊厳侵害の防止を求めたウィーン条約に触れるとして、ソウルの日本大使館前に置かれた少女像の撤去を求め、韓国側も「適切に解決するよう努力する」としたはずだ。その片も付かないのに、新たな少女像である。

 「合意の誠実な履行に反する」と難じた、日本政府の抗議は無理もない。

 大使を一時的に呼び戻すのは5年前、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が島根県の竹島に上陸した時以来である。併せて、金融危機の際にドルを融通し合う通貨交換(スワップ)協定再開に関する協議の中断なども盛り込んだ。

 ただ、今回の措置が事態の改善につながるかどうかは、甚だ疑わしいと言わざるを得ない。

 朴槿恵(パク・クネ)大統領は国会で弾劾訴追にさらされ、職務停止の身である。政権は機能不全も同然といえよう。

 弾劾裁判の行方次第では、大統領選の前倒しもあり得る。野党側の有力候補者は、朴政権の失政と絡めた「合意」の破棄や再交渉を唱え始めている。

 また、安倍晋三首相がテレビ番組で10億円の拠出に触れ、「韓国側にしっかりと誠意を示してもらわないといけない」とした発言で、「経済力とカネで歴史問題を終息させようとしている」といった韓国社会の受け止めを招いた。大統領選で争点化すれば、負の連鎖はさらに悪化しかねない。

 問題の当事者たちは、そんな事態を願っているのだろうか。「合意」時点で存命だった元慰安婦46人のうち、約7割の34人が現金の支給を受け入れている。その重みについて、もっと国民の理解を得る努力が韓国政府に望まれる。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は年明け、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射準備が「最終段階を迎えた」と述べた。暴走する核やミサイルの開発を考えれば、日韓の連携がいささかも揺らいではなるまい。

 返す返すも残念なことがある。元慰安婦支援の財団から、支給金に添える手紙を求められたにもかかわらず、安倍首相はなぜ拒んだのだろう。

 合意に先立つ15年11月、首相は韓国を訪ね、朴大統領にこう語り掛けたはずだ。「高齢になられた(元慰安婦の)おばあさま方の心が癒える道があるなら、一緒に考えたい」

 これこそが、合意と和解の基点だろう。だからこそ日韓合意に当たり、首相は「心からのおわびと反省の気持ち」を表明したのではなかったか。

 外務省は「ボールは韓国側にある」との認識らしい。韓国情勢を注視しながら、日本側も「出口」を見いだす努力を怠ってはなるまい。合意をほごにしない道は両国で探るしかない。

(2017年1月11日朝刊掲載)
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