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被服支廠の保存活用検討 広島県 旧陸軍被爆建物 17年度 耐震調査費計上へ

 広島市内で最大級の被爆建物、旧陸軍被服支廠(ししょう)(南区)について、現存する4棟のうち3棟を所有する広島県が、活用の検討のため、耐震性や補強方法を調査する方針を固めたことが10日、分かった。2017年度当初予算案に関連費2200万円を計上する見通し。部分保存なども含め、今後の在り方を幅広く探るための基礎資料とする考えだ。(樋口浩二)

 被服支廠は、県が06年9月にロシアのエルミタージュ美術館の分館誘致構想を見送って以降、具体的な保存・活用策の検討が進んでいなかった。最大のネックは耐震化費用。1996年の調査では1棟当たり21億円と試算していた。ただ、複数の関係者によると、技術の進歩などで、より安価に強度を高められる可能性が出てきたという。

 被服支廠は、45年8月6日に投下された原爆の爆心地から南東約2・7キロ。爆風でゆがんだ鉄製の扉など被爆の爪痕が残る。建物内は被爆者の救護所にもなった。今回の調査は、最も爆心地に近い県所有の1棟を対象に、コンクリート製の柱や鉄筋の劣化度をチェックし、状態を詳細に把握。耐震診断をし、補強方法などを検討する計画でいる。

 近年は修学旅行の平和学習の行程に組み込まれるケースも増え、15年度は敷地内の見学者数が過去最多の848人に上った。

 市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」代表で、建物内で被爆者の救護に当たった中西巌さん(86)=呉市=は「被爆の『生き証人』として原爆の惨禍を伝えており、活用に向け一歩前進だ」と歓迎。「被爆者が亡くなる中、その価値は増している。具体的な活用の弾みにしてほしい」と期待している。

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 陸軍兵の軍服や軍靴を製造していた施設で、1913年に完成した。L字形に並ぶ4棟が現存し、いずれも鉄筋・れんが造り3階建て。広島県が3棟、国が1棟を所有する。国内最古級のコンクリート建造物でもある。戦後、広島大の寮、県立広島工業高の校舎、日本通運の倉庫などとして利用された。95年以降は使われていない。

(2017年1月11日朝刊掲載)

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