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連載・特集

緑地帯 平和を願う聖堂 青葉憲明 <3>

 世界平和記念聖堂の設計コンペで、「モダン」を課題に掲げながらモダン一辺倒なプランは当選しなかった理由を、審査委員の今井兼次さんが当時の建築雑誌に書いている。「教会の音楽や教会堂の新しい方向性を拒否するローマ教皇庁の方針があった」と。

 伝統とモダン―。相反する二つの課題に設計でどう折り合いをつけるかが、村野藤吾さんの大きなテーマだった。「クライアントの多くの要望を受け入れながら、1%のアイデアで設計者は勝負する」と後に語っている。

 聖堂のプランを三廊式バジリカ型としたのは、教会の要望に応じたものだろう。外壁に囲まれた長方形の建物を、中央の「身廊」と左右二つの「側廊」とに列柱で区切る、欧州の伝統的な聖堂様式である。祭壇の上部にあるドームも「多額の寄付をした人の意向だから」とする教会側の要請として、容易に受け入れた。

 このドームには、取って付けたようだと厳しい意見もあったようだが、完成してみると不自然なところがなく、無理のない見事な形に収まっている。「設計者はクライアントのためにある」という村野さんの主張はその後の建築にも貫かれた。

 身廊の最奥部の内陣は、主祭壇のほか聖堂らしいバラ窓(ステンドグラスの円形窓)を配しつつ、小窓には和風文様を取り入れた。身廊の天井は横木が等間隔にリズムを刻むリブ天井とし、現代的な和風空間を創造。教会の伝統を見事に取り入れたモダンなデザインが生まれた。(世界平和記念聖堂保存活用委員=広島市)

(2017年1月11日朝刊掲載)

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