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連載・特集

緑地帯 平和を願う聖堂 青葉憲明 <6>

 フーゴ・ラサール神父は、世界平和記念聖堂建設などの平和活動や、広島の教育界への貢献などが評価され、1968年に広島市の名誉市民となった。山田節男さんが広島市長の時代である。

 山田さんは、東京大を卒業してロンドンに留学していた28年ごろ、オックスフォード大で日本語を学んでいたラサール神父と出会い、その後、東京で再会している。こうした縁があり、山田さんは神父が68年に東京・奥多摩に座禅道場「秋川神冥窟(しんめいくつ)」を建設する時、後援会長として後押しした。この禅堂は、広島市郊外の南原峡(安佐北区)にあった禅堂が、ダム建設に伴って移設されたもの。親交のあった広島の宗教界や教育関係者、経済人も応援した。

 ラサール神父は欧州で禅の指導者として知られる。神父が座禅に接したのは広島に赴任し、広島文理科大でドイツ語の先生をしていた時だ。日本人の心と文化を理解するためには、禅の精神を体得する必要があると考えた。

 43年に島根県津和野町の永明寺で初めての座禅を体験。56年、福井県小浜市にある発心寺で原田祖岳老師に師事し、本格的な修行に取り組んだ。完成した記念聖堂でも座禅に親しんだ。60年には欧州人向けに「禅―悟りへの道」というドイツ語の本を著し、キリスト教の修徳と観想に禅の悟りの境地が役立つことを説いた。

 ラサール神父のこれらの著作は教会から出版禁止になったこともあった。今では、教会での座禅は容認され、記念聖堂でも神父の遺志を継いで取り組んでいる。(世界平和記念聖堂保存活用委員=広島市)

(2017年1月14日朝刊掲載)

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