×

社説・コラム

社説 台湾の脱原発 日本 背を向けていいか

 台湾が2025年までに「原発ゼロ」を目指すことを決めた。現在3カ所に6基ある原子炉は順次廃炉とする方針だ。脱原発の流れは欧州で広がりつつあるが、台湾で実現すればアジアでは初めてとなる。

 台湾は資源に乏しく、地震が多い地域である。日本と似た環境でありながら、いち早く脱原発を決めた動きに注目したい。

 台湾で原発は発電容量の16%を占める。計画では再生可能エネルギーの割合を現在の4%から、25年までに20%に引き上げて原発の代替とする。離島で太陽光発電や風力発電を積極的に進め、海底に送電線を敷いて電力を送る計画もあるという。

 再生可能エネルギーの普及がスムーズに進むかどうかは予断を許さない。技術的な課題も残されていよう。電気料金の値上がりを不安視する声もある。

 それでも脱原発を決めたのは、東京電力福島第1原発の事故を教訓としようとする民意があったからにほかならない。想定外の事態で事故が起きれば、放射性物質は広い範囲を汚染し、将来の世代にも影響を及ぼしかねない。原発の根源的なリスクを直視し、多くの市民が「ノー」を突き付けて大規模なデモを展開した結果であろう。

 また民意に呼応した政治の動きも大きな原動力となった。昨年1月の総統選では、民主進歩党(民進党)の蔡英文氏が「原発のない郷土」を公約に掲げて当選し、対する国民党も脱原発を支持してきた。こうした民意を重んじる政治の力が、今回の流れを確固たるものとしたと言える。

 「放射性廃棄物の問題を子孫に残さないために、どんな政策が必要か考えるべきだ」

 日本の経済産業相に当たる李世光経済部長がこう述べた意味は重い。脱原発が実現しても残る放射性廃棄物の問題に、今後も正面から取り組む姿勢を示したのだろう。

 日本政府の対照的な姿勢について考えざるを得ない。

 脱原発を求める世論は続いているのに、原発再稼働が相次ぐ。大量の放射性廃棄物の処分について「トイレなきマンション」と言われても、事実上棚ざらしの状態だ。使用済み燃料を再処理して再び使う核燃料サイクルの破綻は明らかであるのに、高速増殖炉原型炉もんじゅの後継として新実証炉を整備する計画を進めようとしている。

 最大の問題は「原発は安い」という誤った考えから抜け出していないことだろう。福島での事故の賠償や除染などの費用は当初の想定より倍増している。そうした費用や原発廃炉費用について、国は原発を持たない電力会社(新電力)にも求める方向だ。原発のコストが本当に安いのなら、競争で優位なはずの大手電力が自社で賄えるだろう。矛盾を隠して国民の負担で原発を維持させようとしているように見える。

 さらに、国内で原発の新増設が見通せないためか、政府は原発の輸出を成長戦略の柱に据える。こうした姿勢が、諸外国から信用されるだろうか。

 ドイツ、スイス、イタリアなどが脱原発の方針を決めた。ベトナムも原発を建設する計画だったがコストが膨らむとして計画を白紙撤回した。これに続く台湾の転換を、安倍政権は真摯(しんし)に受け止めなければならない。

(2017年1月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ