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緑地帯 平和を願う聖堂 青葉憲明 <7>

 世界平和記念聖堂には、海外から贈られた貴重な備品がある。パイプオルガンもその一つ。建設時にドイツのケルン市から寄贈された。当時は東洋一のオルガンといわれ、献堂後まもなく、世界的な音楽家ウィルヘルム・ケンプが弾いた。以来、著名な演奏家が平和を願って奏で続けてきた。

 2010年2月、ヴェスターマンさんというドイツ人から記念聖堂のパイプオルガンについて問い合わせがあった。その人は、イタリアのトスカーナ地方にあるサンアント・スタッツェーマという小さな村で、教会にオルガンを復元する活動をされていた。

 そこは第2次世界大戦中、ナチスドイツによって約560人が虐殺された村だ。犠牲者の多くは女性や子ども、お年寄りだった。この時に教会も焼失した。戦後、教会堂は再建され、07年にパイプオルガンも復元された。

 09年、ヴェスターマンさんはイタリアで、「サンアントの犠牲者のためのトランペットとオルガンの演奏曲」が初演されるのを耳にする。それは、ドイツ人トランペット奏者のラインホルト・フリードリヒさんと、広島市出身のピアニスト竹沢絵里子さんによる演奏だった。

 この縁からヴェスターマンさんは広島に強い関心を寄せ、記念聖堂のパイプオルガンも知ることとなった。彼の仲介で10年秋、この曲は聖堂でも披露された。原爆の悲惨さだけに目を向けがちな私たちにとって、イタリアの小さな村で起こった出来事からも平和を学ぶ貴重な機会となった。(世界平和記念聖堂保存活用委員=広島市)

(2017年1月17日朝刊掲載)

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