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社説・コラム

社説 米軍属の範囲縮小 地位協定 根本から正せ

 米側に優先的裁判権が認められる在日米軍属の範囲を縮小した日米地位協定の補足協定が発効した。昨年4月に沖縄県で起きた軍属(元海兵隊員)の男による女性暴行殺害事件を受けた再発防止策の柱という。

 オバマ大統領の在任中にこぎ着けた「運用改善」ではあるものの、尊い人の命の代償がこれだというのか。全ての米軍人・軍属を含む地位協定の特権構造を改めない限り、米兵犯罪の抑止効果は期待できまい。

 岸田文雄外相は「これまでとは一線を画す画期的なもの」と評した。ならばこれをてこに、日本政府は抜本改定へと踏み込む交渉を始めるべきだ。

 今回、定義が曖昧だった軍属について、米政府予算で雇用される文民▽米軍が運航する船舶等の文民▽米軍が契約する請負業者―など新たに8種類に分類した。昨年の事件で起訴された男は基地内のインターネット関連会社に勤める請負業者だった。男と同じような立場の者は今後、軍属の範囲外となろう。

 請負業者については、高等教育を通じて専門性のある技能や知識を取得した者などに限定した。米政府が軍属と認定した場合は、名前や雇用主などを日本政府に定期的に報告する。報告内容を協議する場も、日米合同委員会の中に新設した。

 しかし、これで軍属がどれだけ絞り込まれるかについては明らかにされなかった。認定に当たっては、任務に関する情報を持つ米側に、あくまで主導権があるのだろう。恣意(しい)的な運用が行われない保証はない。

 在日米軍の軍属は7300人で、うち5千人が直接雇用だ。請負業者など一部の軍属について「トカゲのしっぽ切り」をして、事態を沈静化させようとする思惑が見え隠れする。

 翁長雄志(おなが・たけし)知事も言うように、沖縄側が求めるのは地位協定の抜本的見直しである。重大な事件や事故が起きるたびに、米軍当局は綱紀粛正を口にしてきたが実効性には乏しかった。

 地位協定の中で米軍人・軍属による事件や事故のたびに指摘されるのが、刑事裁判権を定めた17条だ。軍人・軍属の公務中の犯罪は米国に、公務外なら日本に、それぞれ第1次的な裁判権があるとされている。

 しかし建前にすぎまい。公務外でも容疑者の身柄が米側にあれば、原則として起訴されるまで日本側に引き渡されない。それでは捜査に支障を来す。過去の暴行事件の折、県民の強い要求で米側が「起訴前の引き渡しに好意的考慮を払う」と約束したものの、あくまで相手方の裁量に委ねる点が問題だ。

 日本の司法権の見地からいうなら、17条の規定自体を見直すのが筋である。起訴前の身柄引き渡しなどを中心に、改定がなされるべきではないか。

 基地に絡む排他的管理権も問題だ。基地跡地の猛毒ダイオキシン問題を機に、日米は環境補足協定を結んだものの、日本側の立ち入りにはいまだ制約が残る。米軍機の墜落事故で警察や消防、海上保安部などが直後の立ち入りを拒まれたことも、一度や二度ではない。

 何か事が起きるたびに運用改善で取り繕うだけでは、もはや限界ではないか。地位協定は沖縄だけでなく、本土の米軍基地の地元に共通する課題でもあることを忘れてはならない。

(2017年1月18日朝刊掲載)

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