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核なき世界への鍵 現在地 <5> 北朝鮮にて 非核化へ草の根で対話

 わが国の核武装を、どう思いますか―。広島市立大(安佐南区)国際学部2年堀川光生さん(20)=安芸区=は、昨夏に学生交流で出会った北朝鮮の女子大学生「ギョンアさん」と交わした会話が忘れられない。

 2003年、核拡散防止条約(NPT)からの「脱退」を宣言した北朝鮮は、16年の2回を含め計5回の核実験を強行した。安全保障に関心があり「現場を知りたい」と思っていた堀川さんは、子どもたちの絵のやりとりを通じて北朝鮮側との関係を築く市民団体「南北コリアと日本のともだち展実行委員会」(東京)の交流事業に応募。昨年8月23~29日、東京などの学生7人と共に中国経由で首都の平壌を訪れた。

 現地では、平壌外国語大で日本語を学ぶ学生11人と一緒に遊園地と動物園を巡った。広島で平和学習を続けてきた堀川さんは原爆被害を話すつもりでいた。その機会は、朝鮮戦争に関する「祖国解放戦争勝利記念館」との行き来のバスでやってきた。

 隣の席のギョンアさんから日本語で北朝鮮の「核武装」の受け止めを問われ、「核兵器をなくそうとする国際社会の潮流に逆行し、よくない」と素直に答えた。しばし沈黙の後、「広島の惨状を知っている。わが国に使われないよう、鉄壁の守りを固めたい」との答えが返ってきた。

 聞けば、広島の被爆を扱ったドキュメンタリーを見たことがあるという。堀川さんは「北朝鮮の学生が原爆被害を切り出すのは意外だった」と振り返る。だが、せっかくの被害への認識は、今のところ核超大国の米国に抱く「脅威」と、自国の核保有の肯定につながっているように思えた。

 核を使わせないため、核を持つ。この抑止の論理は米国やその「核の傘」に入る日本や韓国にも通じる。そのため、北朝鮮だけに核放棄を迫るのは説得力を欠く。一部の専門家や政治家は、北東アジアで米ロ中が核を使わないと約束し、日韓と北朝鮮は持たないと宣言する「非核地帯化」を提案する。一方、日本の外務省は、北朝鮮の核放棄が先決との姿勢だ。

 昨夏の訪朝で堀川さんは核保有が新たな核保有を招くジレンマを改めて知った一方、草の根の対話でお互いを知る大切さも感じた。

 「学生から核武装は『家族や大事な人を傷つけられたくないから』との声を聞いた」。核・ミサイル開発を誇示する北朝鮮の国営放送などから想像していた米国、日本への好戦的な姿勢とは少し違った印象を受けた。被爆10年後に白血病で亡くなった佐々木禎子さんがモデルの「原爆の子の像」の話をすると学生たちが涙を浮かべ、「原爆は怖い」との感想も聞けた。

 子どもたちのたこ揚げ、結婚式…。日本のニュースではあまり伝えられない同じ人間の営みをスマートフォンで写した。「考えに隔たりはあるけど、対話を進めるため、現地の若者の声を身近な人から伝えたい」

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によると、昨年1月時点で核兵器10発を保有するとされる北朝鮮。真意は分からないが、同10月の国連総会第1委員会(軍縮)では、「核兵器禁止条約」の交渉開始決議案に賛成した。(水川恭輔)

(2017年1月19日朝刊掲載)

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