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社説・コラム

『記者縦横』 戦争体験者の言葉重く

■東京支社・田中美千子

 突然の訃報に言葉を失った。米ハワイの日系米国人の岩竹稔さんが92歳で亡くなったと、遺族から連絡を受けた。安倍晋三首相の真珠湾訪問を前に昨年12月下旬、現地で激動の半生を取材したばかり。「先の大戦は間違いでした」。戦争が何をもたらすか、身をもって知る人の言葉はずしりと胸に響いた。

 ハワイ出身の日系移民2世。17歳の時、父祖の地である広島滞在中に日米が開戦し、帰国できなくなった。その上、日本軍に徴兵されて満州(現中国東北部)へ。旧ソ連軍の猛攻の中を生き抜くも、広島では弟が原爆死した。帰国後は朝鮮戦争に米軍兵として志願。除隊後も約40年間、米軍属として勤め上げた。

 国の戦争責任を語る時、口調は熱を強く帯びた。「原爆投下は米国が悪いが、日本は無謀な戦を続け、ひどい犠牲を出した」。太平洋上に散った友もいたという。「首相には過ちを悟り、よい世界を築くと誓ってほしい」とも。

 その思いに報いる内容だっただろうか。真珠湾で演説した安倍首相は、日米の「和解」を強調。日本の復興を支えた「米国民の寛容の心」が「希望の同盟」の土台だ、とたたえた。

 未来志向の言葉をちりばめた演説からはしかし、命や暮らしを踏みにじられた人びとの苦難も、戦争の愚かさも、伝わってこなかった。反省の言葉を排したまま掲げられた「不戦の誓い」も、説得力を欠いた。岩竹さんはどう感じただろう。もう聞くことができないのが残念でならない。

(2017年1月20日朝刊掲載)

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